#20 先輩の決意



 サクラ先輩は相変わらず、毎日お昼休憩になると俺のクラスにやってきて一緒に食事をする。


 最初の頃は、机を挟んで向き合って座っていたが、最近は俺の横にイスを並べて密着させて食事やお喋りをするようになった。


 無意識なのかワザとなのかは判らないが、ヒザに手を乗せて来たり肩同士がくっ付いたりと、あざといアピールも増えている。



「サクラさんは進学志望なんですよね?」


「そうだな。 県内の大学へ進みたいと考えているよ」


「へぇー県内ですか。 県外で一人暮らしとかに憧れたりしないんですか?」


「何を言っているノリオ、県外に出たらノリオと会えなくなるじゃないか、まったくもう」


 そう言って、頬を膨らませたサクラさんは左手で俺のヒザをポンポンする。


「そういえば、今日の放課後はどうします?」


「う~ん、そうだなぁ。 なんだかんだと二人きりでお喋りするのが一番楽しいから、今日もどこかカフェにでも寄ろうか」


「了解っす。 お店をチョイスしておきますが、もし行きたいお店とかあったら言って下さい」


「ああ、分かった。 放課後が楽しみだな、ノリオ」


 そう言って、サクラさんは今度は左手で俺の手を握った。




 こういうの、普通の女子だったら「なんかあざといな?」と少し勘ぐってしまうが、なにせあのサクラさんだ。


 鬼の風紀委員とまで言われ恐れられていたサクラさんが、ニコニコしながら楽しそうにお喋りに夢中になってスキンシップを取る姿は、中々の破壊力がある。 所謂、ギャップ萌えと言えば判りやすいか。



 考えて見てくれ。


 真面目でツマラナイ子と言われ、鬼の風紀委員と呼ばれるほど他人に厳しく自分にも厳しかった女性。 そして、その整った容姿も周りから近寄りがたく思わせる要因になっているだろう。 美人って怒ると怖いし。 

 恐らく3年のクラスでは距離を置かれるほどだから、普段は愛想笑いすらしないのだろうな。

 

 そんな女性が、自分の前でだけ笑顔を見せて楽しそうにお喋りに夢中になる。

 甘えた声でウインクされた時なんて、我が目を疑った程だ。


 それほどサクラさんの変化は激しく、そして俺のハートをガッチリとホールドした。



 サクラさんは恋愛経験が無いと言っていたので、恐らくこのギャップは計算した物では無く、天然なのだろう。


 しかし天然と言えど、自分のキャラを最大限活かしており、大きな効果をもたらしているのも事実。


 このサクラさんの変化は、俺の脳内ヒロインランキングにも大きな影響を与えていた。 今や最強幼馴染のメグっちとほぼ同列だと言っても良いだろう。






 そして、そんな日々を過ごしていると、サクラさんから誘われ、初めてのお宅訪問をすることとなった。



 その日の放課後、いつもの様に校門で待ち合わせて「今日はどうしましょうか?」と希望を聞いたところ、「たまにはウチでどうだ? マックやカフェでは話せない相談もしたいところだしな」とのことで、寄り道せずに真っ直ぐサクラさんのお家へ向かった。



 サクラさんのお家では、サクラさんのお母さんが出迎えてくれた。


 お母さんは「サクラがお友達を連れてくるなんて!?」とかなり驚いた様子だった。



「こちら後輩でボーイフレンドのノリオね。 今日は是非ウチに遊びに来て欲しいって誘ったの」


「初めまして、水元ノリオと申します。 今日は急にお邪魔しましてすみません。 それにしても流石サクラさんのお母さん、とてもお若くてお綺麗で、安定のヒロインママですね」


「まぁ!水元くんはお口がお上手なのね! サクラったらいつの間にボーイフレンドなんて出来たの? ササっどうぞ上がってね」



 お家に上がらせてもらうと、30分ほどリビングでお茶をしながらお母さんからの質問攻めが続いたが、いい加減しびれを切らしたサクラさんが「まだ結婚とか早いから! ノリオが困ってるでしょ!」と強引に質問攻めを打ち切って、サクラさんのお部屋に避難した。


 流石に「婿養子とか平気?」と聞かれた時は、閉口したな。





「ウチの母がすまなかった。 聞いての通り、私が友人を家に連れて来たのは本当に初めてでな、母も相当舞い上がっていた様だ」


「いえいえ、気にしないで下さいよ。 ヒロインの家に遊びに来たら、これくらい主人公としては嗜み程度ですよ」


「そ、それにしても、自分の部屋にノリオがこうして居るというのは、妙に落ち着かないな」


「そうですか? あ、でも俺もメグっち以外の女性の部屋は初めてだから結構新鮮な感じします。 部屋中サクラさんの香りで一杯ですしね」



 そんな会話をしながらすすめられたクッションに座ると、サクラさんも俺の横に引っ付く様に座った。


「最近、サクラさんの距離感、近いですね。 可愛い子猫ちゃんだぜまったく」


「そ、そうか? そんなことないだろう・・・」


 そう言いながらもサクラさんは俺のヒザに手を乗せた。


 サクラさんは俺から目を逸らしながらも何か言いたそうにモジモジしている。



「どうしました? そういえば、人に聞かれたくない話があるんでしたっけ? 可愛い可愛いサクラさんの相談なら、何でも聞いちゃいますよ」


「それなんだが・・・・ノリオは、私にスクール水着を着て欲しいと思ってるのか?」


「へ?」


 てっきり、愛の告白でも始まるのかと思ったら


「そのなんだ・・・前にノリオも言っていただろ? スク水が最強だとかなんとか。 それに土田さんがスク水を着ているのもノリオの好みに合わせてなんだろう? だったら私もこのまま手をこまねいている場合じゃないと思ったんだが、しかし、制服の下とは言え、ノリオにスクール水着姿を見せるというのは、どうしても恥ずかしくてな・・・・だから、ノリオが「着て欲しい!」と言ってくれれば、私にもその勇気が持てそうなんだ・・・」


「着て欲しい! サクラさんのスク水姿ちょー見たい! むしろ制服の下じゃなくて、今ここでスク水姿の全てを見せて欲しい!」


 一切の躊躇も迷いも無く、即答した。


「あ!あと! スク水にニーソの合わせで是非!!!超垂涎モノですよ!」





 そう

 俺は罪作りな男、ノリオ。







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