第11話 ひとつの真相
「待って」
わたしは前を行く沙良ちゃんに声をかけます。
「沙良ちゃん」
沙良ちゃんに止まるようすはありません。
「待ってってば!」
わたしが沙良ちゃんの手を振り払うとようやく沙良ちゃんが振り返りました。小川が凍れるほどの寒さの中、わたしと沙良ちゃんはアスファルトの上で対峙しました。沙良ちゃんは興奮のせいか、光を受けたびいどろのような瞳をしています。
「どうして、あんなことするの」
「あんなことって?」
わざとらしくとぼける沙良ちゃんにわたしは腹を立てました。おなかにぎゅっと力をこめて、話している最中に感情があふれてしまわないようにします。
「いきなり家を出たり、戸辺さんのお使いを断ったり。戸辺さんはわたしたちによくししてくれたのに、どうしてそんなことをするの」
「そんなの……小麦だけでしょ」
わたしはあぜんとしてしまいます。沙良ちゃんがそんなひどいことを言うとは思っても見なかったからです。
「沙良ちゃん。本気で思ってる?」
沙良ちゃんはわたしと視線をあわせようとしません。下を向いたまま小さな声で言いました。
「あのひとは悪いひとだよ」
聞き捨てなりません。
「沙良ちゃんちがうよ、戸辺さんは」
「わたし見たの。昨日、トイレを貸してもらったとき階段の上のほうにケシの実がたくさん植えてあった」
「別にケシの実があったからってなんだというの」
沙良ちゃんは目を丸くしました。
「小麦、知らないの。……ケシからはアヘンが取れるんだよ」
おどろいて声が出ないわたしに構わず、沙良ちゃんは続けます。
「パン屋さんに小麦粉を届けるのっていうのもおかしい。あそこのパン屋さんはもう 営業してないんだよ。たとえ、営業してたとしてもあんなすこしの量の小麦粉で足りるわけないじゃん。だいたいなんであのひとは仕事をしてるふうでもないのにたくさんの本が買えるのが不思議」
何から何までおかしいよ」
わたしは何も言えません。言いたい言葉はあるのにどれも拡散してしまって喉を通ることなく消滅してしまいます。
沙良ちゃんはこれが結論、と言わんばかりにわたしの目を見てきっぱりと言い切りました。
「ここらあたりでケシを違法所持しているひとがいるって聞いた。だからきっとそれが戸辺さんだよ。あのひとは小麦に犯罪の片棒を担がせようとしたんだ。
小麦は騙されてたんだよ」
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