デュアルアタック

 二人分の魂が入っているとどうなるんだ?

 頭脳が二倍だから、強いってこと?


「ふむ、それもあるな」


 実際今も、こいつが指示してくれているおかげでなんとか避けれている。

 攻撃を見るのと避けるのを同時にやっていったんじゃ、すぐに限界が来ていただろうな。

 ……これでも粘るだけで防戦一方だけど。


「重要なのは、身体能力の強さが魂の数に比例することだ」


「なるほど……?」


 さっきのバク宙や今の回避は、普段の俺じゃ考えられない動きだもんな。

 いくら最近運動しているからって、ここまでは強くならないよね。

 この体の所有者だから、その変化には言われずともなんとなく気づいていた。


「いわゆる潜在能力の解放だな。体に眠る、通常は使われることのない力をフルに引き出せる」


 なんか話が格闘漫画染みて来た。

 リミッター解除で、俺もムキムキになれるとか?


「ふざけてる場合じゃないぞ」


「ひぇ!」


 ついに母さんのパンチが一発頬をかすめた。

 直撃はしていないが、皮膚が痛む。

 この痛み、エイリアンに刺されたときみたいだ。

 なんて鋭い拳なんだ。


「あまりの拳の速さに周囲が一瞬真空になり、そこに瞬時に集まった空気が風の刃を作る風刃拳を生で見れる日が来るとはなぁ……」


 ほら、じいちゃんが解説してる!!

 やっぱり格闘漫画の世界だよもうこれ!!

 ホラーはどこに行ったの!?

 まあ風刃拳はもはや新手の怪異だとも思うけどね!


「だから、早く我の話を聴かぬと手遅れになるぞ阿呆」


 はい、聞きます!

 それで、普段は出ないパワーを出すってことだったよね!?


「そうだ。そして、最大限の力を発揮する方法がある」


 一体その方法とは!?

 俺はジャンプして、母さんの低めの蹴りをかわす。

 早くしないと、こっちが殺られる。


「互いが同じ動きをすることだ。魂のシンクロこそが最も体の力を引き出せる」


 互いが同じ動きをするって……。

 それどこぞの映画で見たことあるなぁ!?

 俺の体はロボットじゃないんだぞ!!


 突っ込んでる場合じゃないか。

 二人で一緒にパンチを出せってことでしょ?


「わかっているじゃないか」


 で、タイミングは?


「そうだな……。次の攻撃を避けた直後にしよう」


 これね!!

 この右ストレートを避けて……。


「こちらも右ストレートだ」


 了解!


 集中すると、時間がスローに見える。

 感覚器官も強化されているのだろうか。

 とはいえ、なお素早い拳をすれすれで避ける。

 そして、技の終わり際、母さんの体が一瞬止まったことを確認する。


 今だ。

 俺はなんのためらいもなく、母さんの胸めがけてパンチを繰り出した。

 それは想像をはるかに絶するスピードになり、クリーンヒットした……ように見えた。


 しかし、母さんは構えていた左腕を差し出し俺のパンチを受けたのだ。


 やられた……。

 もうここから逆転の手段はない。

 全力の一撃を止められた俺はすっかり絶望し、もはや次の攻撃をかわす気力すらもなくしてしまった。

 そのまま繰り出された拳が肩に当たる。


「あれ?」


 痛くない。

 そもそもこれはパンチじゃなかった。

 ただ手を置いただけだ。


「やるじゃない、明」


 突如訪れた休戦に戸惑う俺を、母さんが爽やかな笑顔で褒める。


「あれ、もう終わったの?」


 まだ続くとばかり思っていた。

 ……どのみち続いたとしても、俺に戦意はなかったけど。


「あら、夢中で忘れたわね、ルールを」


 え、えーと、たしか……。


「さっき一発当てたでしょ? あれで勝ちよ、明」


「あ、ああ、そうか……」


 倒さなきゃいけないとばかり思っていたけど、当てるだけどよかったんだった。

 防がれたとはいえ、当てたことに変わりはない。


「明の一撃、すごかったわよ。防御しなかったら致命傷になっていたはずだわ」


「あはは……」


 母さんが強くてむしろよかった。

 でなきゃ、俺は母さんを殺してたのかも。


「おい、小僧。我は用が済んだので帰るぞ」


 あ、わかった。

 助けてくれてありがとうな!

 お前がいなかったらマジでやばかったよ!


「その体、我のものになるまでせいぜい大事にするがいい!」


 たしかに感謝はしているけど、お前のものには一生なれねーよ。

 なにがあろうと、この体は俺のだ。

 ……貸すくらいならいいけど。


「さらばだ!」


 途端にふわっと、体からなにかが抜けたように軽くなる。

 帰っていったみたいだ。

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