大切なもの達

「コレ、ヤル」


 熊君が俺をやっと解放してくれたときだ。

 山の王が俺になにか……ネックレスのようなものを渡してきた。

 先に動物の骨かなにかが結ばれている。

 そういえば、これ、あの洞窟で見たよな?


「これは?」


「オレ、ミトメタ、アカシ」


「そっか、ありがとう」


 と、感謝の言葉を述べたんだが。

 認めたって、なんのことだろうか。

 次世代の山の王に?

 いや、それはごめんだな。

 それとも、この山の仲間としてだろうか。

 それは歓迎なのだが。


「カエル」


「うわぁ!」


 結局帰りだろうと移動はこれなのね。

 何度経験しても、酔ってしまう。

 けど、これ結構早く目的地に着くから最適なんだよな。

 もし歩きで山を下ると、遭難したり、時間がかかる。

 これも彼なりの気遣いなのかもしれない。


―――――――――


「ツイタ」


「おっと」


 素晴らしい着地。

 で、ここはというと。


「あれ、麓じゃない?」


 たしかここは彼に誘拐されたときにいた場所……?

 山の景色なんて覚えてないから推測だが。

 まさかここから自力で下山しろと?


「サヨナラ」


 あ、行っちゃった……。

 俺は来た道を見て、ため息をつく。


「……帰るかー」


 今日はもうすでに疲労がたまって、足ががくがくなんだけど。

 いつまでもここにいるわけにはいかない。

 夜になったら危険な……じゃなくて。


「楽しい友達に会えるかもな」


―――――――――


「ただいまー!」


 俺はなんとか日が沈むまでに帰宅する。

 途中、山が赤く染まり出したときは焦った。


「おかえりー、あき……ら……」


 お玉片手に笑顔で出迎えてくれた母さんの顔がしかめっ面になる。


「どうしたの?」


「明、なんかすごい臭いがするわよ」


「そう?」


 改めて嗅いでみると、かなり獣臭いような。

 長いこと一緒にいたから慣れてしまって、気づかなかった。


「それに、その毛!」


 これも今気づいたが、服には動物の毛が大量についていた。

 主に熊君の。


「あー、野良犬と遊んでて……」


 犬ではないけども。

 正直に熊とは言えない。


「ま、とにかく先にお風呂に入りなさい!」


「はーい!」


 俺も汗を流したかったので、風呂にはどのみち入る予定だった。

 早くさっぱりしよっ!


―――――――――


「ふぅ~、お風呂上がったよ~」


 一日の疲れを癒し、爽やかな気分だ。

 リビングでテレビを見ている父さんに次を促す。


「おっ、明。ちょっとこれ見てみなさい」


 テレビを指さす父さん。

 今なんの番組やってるんだろ?

 右上のテロップには、「ミステリー探検隊」と書かれている。


「この番組、どんなの?」


「日本中の不思議なものを調査する番組らしいが、今この村が映っているんだよ」


「へ、へ~」


 ちょっと戸惑いがちな返事になったのは、最近怪異調査をしているから。

 以前なら、こういう番組は嘘くさくて作り物だと考えていたが。

 最近の実体験から、そうも言えなくなった。

 てか、こういうオカルト番組ってどんな反応で見ればいいんだ?

 とかいう思考の泥沼にはまりかけたので、テレビを見る。

 ナレーションと思われる人が、状況を解説している。


「そしてついに、我々調査隊は開封村に住むUMAの撮影に成功したのです!!」


 映像は山の中。

 別におかしいところはなにもないようだが……。


「おわかりいただけただろうか」


 いや、わからん。


「画面右端にご注目してください」


 いや、普通の木しか見えないが。


「ここに、動く人影が!」


 赤い丸で囲まれたそこには、たしかに人影が。

 ぼんやりと濃い茶色をしていることまではわかる。

 てか、これって……。


「山の王……?」


 なーんかそんな感じがする。

 あくまで雰囲気がね。


「なんだそれ、明?」


 父さんは当然首をかしげた。


「あ、いや、なんでもない!」


 話すと長くなるし、信じてもらえないだろうから。

 あ、でも、一応伝えとこう。


「あれはきっと、この山を守ってるなにかだよ」


「なるほど、そういう見方もあるな……」


 なんとかごまかした。


―――――――――


「今日はホントに疲れたなー」


 ベッドに倒れ込む。

 怪異調査に行くと、いっつも体を使う羽目になる。

 運動不足の俺にはいいのかもだけど。


「これ、しまっとこう」


 俺は枕元に置いてあるクッキーが入っていた空の缶を手に取る。

 その中に今日もらった証を入れる。

 先がとがっているので気をつけなきゃ。

 ちなみに、この箱には先客がいる。

 それは、エイリアンからもらった虹色の証だ。


「ふふっ」


 この二つは……いやこれ以外の怪異もなんだかんだでいい思い出だ。

 大切にしまっておこう。


 訂正。

 ゾンビと殺人鬼には二度と会いたくない。

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