時を超えた真実

「ん……」


 今度こそ、目を覚ますと現実だ。

 青い空が目に入る。

 セミの鳴き声も聞こえる。

 直前にいた場所、千年杉の根本に俺は寝ていたようだ。

 木陰だし、気持ちいのいい風が吹いてくる。

 二度寝でもしたい気分だが、さっきの出来事をまとめないと。

 俺は起き上がった。


―――――――――


「すみません、七つ星さんのお宅はこちらですか?」


 家の前で、宅配便の配達員さんに出会った。


「はい、そうですよ」


 なにか荷物が届いたようだ。

 俺がネットで注文したマジカル少女スぺシャルフィギュアセットかな。

 山奥だから数日かかるんだよね、届くまで。


「明人さん宛てに荷物が届いています。ここにサインをお願いします」


 段ボールを差し出された。

 はいはい、サインね。

 それにしても、明人って言ったよな。

 俺宛てじゃないのか、残念。


「明人?」


「どうかしましたか?」


 その名前、聞いたことあるな。

 つい最近聞いたんだが……。

 そう、たしか夢の中で。

 ダメだ、忘れかけてる。

 早いとこメモしないと。


「あの、配達ミスでしたか?」


「いえ、大丈夫ですよ! ここは七つ星です」


 なんにせよ、七つ星はこの村でここしかない。

 配達員さんを困らせてしまって申し訳ないので、ぱぱっとサインを書く。


「ありがとうございました!」


 俺は配達員さんを見送って、家に入る。

 さて、この段ボールは座敷にでも……。


「おお、明。それはワシの荷物じゃな」


「あ、じいちゃん」


 これじいちゃんのなのか?


「明人さん宛てなんだけど、じいちゃんって明人だっけ?」


「しばらく会いに来んうちに、忘れおったな」


 じいちゃんに睨まれる。

 薄情な孫でごめんなさい。


「ごめん、忘れた……」


「いいんじゃよ、明。そうじゃ、ワシは明人じゃよ」


 にこっと笑顔で答えてくれたので、少しは気持ちが軽くなる。


「そっか、ありがとう」


 おかげで思い出せた。


「まったく、ワシはあれから一度も忘れておらんのに……」


「え?」


「いや、なんでもない」


 そう言ってじいちゃんは俺の横を通り、座敷に行ってしまった。

 ……最後の、「一度も忘れてない」ってなんのことだろう?


―――――――――


 それにしても、あれは現実なのだろうか。

 まあ、そもそも怪異はどれもそんな感じで疑いたくなるものばかりだけど。

 今回の出来事は全部杉の木の下で寝ている間に起こった。

 だから、夢の可能性もある。

 宇宙人のときみたいに、証拠もないし。

 唯一覚えていることと言えば、あそこで会った人達。

 そうだ、それが手がかりじゃないか。


「えーと……」


 おぼろげな夢の記憶をなんとか引っ張り出す。

 まず、時の番人だろ。

 こいつは怪異だったな。

 怪異録にも載ってたし。


 で、後一人誰かと会ったような。

 たしか俺と似たような名前で……。


「明人だ!」


 名前を思い出したことで、記憶が幾分か鮮明になる。


 そう。

 偶然にも俺のじいちゃんと同じ名前の人物が俺の夢に出てきた。

 そして、一緒に力を合わせて困難を乗り越えたんだ。


 それにしても、この明人って誰だろう?

 やっぱりじいちゃんかな?

 けど、俺より若い見た目だった。

 そりゃあ、夢なんだとしたらなんでもありだから見た目が違うかもしれない。

 でも、俺じいちゃんの若いころの姿なんて知らないのに夢に出てくるかな普通?


「そうだ」


 直接訊いてみよう。


―――――――――


「ねえ、じいちゃん」


 俺は座敷で箱を開封しているじいちゃんに話しかける。

 ちなみに、箱の中身は今話題の漫画「マジカル怪異」の全巻セットだったみたい。

 こういうの読むんだ。

 ちょっと親近感。


「なんじゃ?」


「俺、さっき千年杉に行ってさ」


「……」


 黙って俺を見つめるじいちゃん。


「そこで、夢を見たんだよね」


「ほう」


「で、そこで明人って人と会った」


「ワシと同じ名前じゃなぁ」


「じいちゃんは……あの明人なの?」


 自分でも変な質問をしたと思う。

 夢の人物と現実の人物が同じなわけない。

 でも、これは怪異だから、ちょっとくらいおかしくても。

 と、希望を抱く。


「そんなわけないじゃろ。それは夢の中の出来事じゃないか」


 俺の幻想はあっさりとじいちゃんの一言で崩れ去った。


「そ、そうだよね」


「しかも、歳も全然違っておっただろ?」


「うん……」


 やっぱり俺の勘違いだったか。

 じいちゃんに不思議がられちゃったな。

 俺は恥ずかしくなって、自室に戻る。


―――――――――


 しかし、レポートを書いているときに気づく。


「あれ、じいちゃんはなんで明人の歳を知ってるんだ?」

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