最も大切なもの

「明、早く次行こう!」


「ちょっと、待ってくれ」


 先に進まなきゃとは思う。

 だが、もうちょいだけ休憩させてくれないかな。

 疲れて動けない。


 それに。


「明人、けがは大丈夫なのか?」


 さっき動けないって言ってたけど。


「うーん、まだ痛いけどなんとか動けるよ」


 足をさすりながらそう言った。

 動けるならいいんだが。


「無理すんなよ」


「わかってるよ!」


 ま、俺もさっきのでかなり無理したんだがな。

 次のミッション大丈夫かな。

 いつまでもぐずぐずしていられない。


「よし、じゃあ行くか!」


 床に転がっていた俺は起き上がる。

 またしても次の部屋への扉を開ける。

 今度はなんだろう。


「ファイナルミッションです」


 おおっ!

 ついに最後!!

 もうスタミナが限界だったんだよ。


「時の番人クイズに答えてください」


 んんん???


「クイズ?」


 二人そろって頭に疑問符を浮かべているときだ。


「第一問!」


 いきなり始まってしまった。

 なんだ、なにが出る?


「時の番人は、時を司る。〇か×か?」


 これは……簡単だろ。


「〇でいいよな、明人」


 一応お互いに確認してみる。


「うん、時間止めたりできるもんね」


 そうそう。

 怪異録にも書いてあったし。


「それじゃあ……〇!」


「ピンポンピンポーン!」


 ありきたりな効果音が鳴る。

 よかった、正解だよな。

 ちなみに間違うと死んだりする?

 ……考えたくないな。


「第二問!」


「時の番人のせいで時間がおかしくなったら、許せる?」


 これも、すぐに答えは出る。


「俺は許せないな」


 明人はどうだろうかと、視線を送る。


「俺も許せない!」


 だよな。

 だって、牛乳が賞味期限切れになったり、カップラーメンが作れなかったりするもんな。


「じゃあ……許せない!」


「……」


 しかし、今度はなんの効果音もならない。

 間違いだった?

 そもそもさっきの問題に正解とかないよな。


「第三問!」


 さっきの答え合わせはなく、次に進んでしまった。

 気にはなるが、とりあえず三問目に集中しよう。


「番人は反省しています、それでも許しませんか?」


「……ふっ」


 俺はつい笑ってしまった。

 これも簡単すぎるな。


「どうする、明人?」


 笑いながら問いかける。


「許せないって言っちゃったけどさ」


「うんうん」


「反省してるんなら、許してあげたいな」


「だよな、俺も同感だ」


 俺達だってそこまで怒ってない。

 なによりあいつは、根はいい奴だ。


「よし、一緒に言うか」


「うん」


「せーの!」


「「許してあげる!!」」


 息を合わせて叫ぶ。


「ピンポンピンポーン!」


 即座に正解の音が鳴った。


「みんなー!!」


 どこからか番人が現れて、俺達二人に抱きつく。

 仮面で顔は見えないけれど、声で泣いているのがわかる。


「どうしたんだよ」


 笑いながら頭をなでてあげる。


「さっきね、主神様からね」


「うんうん」


「許さないって言われたらゲーム禁止だって言われたの!」


「そうか、だから泣いてるんだな」


 時間の管理をさぼるような番人には、それくらいの罰があってもいいんじゃないかとも思ったけれど。

 てか、俺達と二度と会えなくなるから泣いてる……みたいな感動的な涙じゃないんだな。


「いいか、番人」


 釘を刺しておこう。


「ふぇ?」


「俺達は、反省してるなら許すって言ったんだぞ」


「そうだよ!」


 つまり。


「今度からはゲームやりすぎるなよ!」


 反省してるなら、時間を決めてやるんだぞ。


「俺達が困っちゃうんだから!」


「……わかったよー」


 どこか納得できてないみたいだけど、今回の試練で少しは成長してくれたなら嬉しいな。

 なーんて、なぜか親みたいな気持ちを抱いた時だ。


「七つ星よ」


 おっ、この声は。

 たしか……。


「ここまで時の番人に付き合ってくれたこと、感謝する」


 いや、あんたに強制的に付き合わされたんだけどな。

 ……主神だっけか?


「時の番人はこの世界に欠かせない存在の一つだ」


 当然だ。


「これからも彼が己の職務を忘れることがなきよう、密かに応援してやってくれ」


「……しょうがないな」


 時間がおかしくなっちゃ困るもんな。


「俺達がいなくても、ちゃんと時間を動かしてね?」


「あったりまえじゃん!」


 胸を張る番人。

 さて、信用してやるか、今回は。


「それでは、今からお前達を元の世界に帰す」


 やっと帰れるのか。

 これで四つ目の怪異もおわり。


「最後に、なにか言い残すことは?」


 うーん、大体さっき言ったからな。


「楽しかったぜ、二人共!」


 番人がそう言った。


「そうだな」


「うん」


 俺達七つ星も、楽しかった。


「僕のこと、忘れないでね?」


「ああ」


「もちろん」


 こんな問題児、忘れるわけない。


「それじゃあ、またね!」

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