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 でも『可愛いおねーさん』ですって。


 ふふっ…


  ひとり気を良くしつつ私は、再び歩き出しました。

 

 で、やがて1本の車道に行き当たったところで左へ曲がり、少しばかり歩道をゆけば…


 はい、目的の古道具屋さんの前に到着です。


 店前にまで並べられた品物群のみならず、その建物も古い当店は『変奇異へんきい堂』。私の、というか、そもそもは私の『先生』の馴染みの古道具店です。


 実は私、人づてのご縁で、ある有名作家先生のアシスタントのお仕事をしているんです。


 たとえば、簡単な取材から編集者さんの応対から、先生のお食事の用意やペットの世話等々をする訳です。

 

 そう、そのお仕事の一環として、この近くにお住まいの先生から『掘り出し物探し』に寄越されているうち、すっかり私も当店の顔馴染みになったんです。


 自分で通うだけでは飽き足らず、執筆の傍らアシ・・の私をもここへ使わせ、果たして何を買って戻るかワクワクしながら待つという…ええ、変わった先生です。


 さておきまして、いつも開けっ放しの戸口を潜って、私は店内へ。狭小にして雑多、かつ他に客の姿も見当たらない中、一歩ニ歩と踏み入れます。


「らっしゃい」


 ワイシャツの上からカーディガンを羽織った姿。脇のカウンターの中で新聞を読んでいた年輩の男性、すなわち店主さんが、はたと顔を上げて私を一瞥。その後、再び新聞に視線を戻しました。


 もちろん『顔馴染み』というからには、その店主さんとは、お互いに顔見知りです。お名前も存じています。


 とはいえ、さすがに私とは気づかなかったようです。いつもみたいに彼が『よお、坊やさん』と、私に声をかけてくることはありませんでした。


 うんうん、よかった…のかどうか、とにかく私の『変身』お見事。自画自賛ということで。


 それはともかく、我が先生へのプレゼントとして、幾つかの小物を手に私が、やがてカウンターへと向かった時のことです。

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