第61話幼い少女の冒険譚7


 リナが翻訳魔道具製作中、マインは庭で剣術の練習に励んでいた――


「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 愛剣である短剣を振るったマインは、ズバッと大木に切込みを入れる。


「ふぅ、少しは威力上がってきたかなぁ」

『グボォォ!』

「お! エデンもそう思うよな! よーし! もっと強くなって絶対モンスターと人間が共存できる世界を作ってやる!!」


 そう言ってより一層練習に励んだエデンの顔は、まだ僕が理解できない表情を浮かべていた。



 笑顔ってなんなのだろう――



 少し前に聞いた時は、幸せな時に出るものと言っていたが、表情の変わらない僕には分からない。なんかちょっと怒ってるみたいな顔だし……。

 窓に写った自分の顔を見た僕は首を傾げ、変な顔。と少し悲しい気持ちになった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 それから二ヶ月。



 リナはいよいよ翻訳魔道具を完成させ、マインはというと剣術武闘会で優勝し、街の勇者として活躍していた――


『キョウハ、ナニスルノ』

「今日はねー、とりあえずマインが帰ってくるの待ってから、久しぶりに外食かなぁ」


 そういって先に綿が着いた棒をポンポンするリナは、だいぶ言葉が馴染んできたねぇ、と微笑んだ。

 

『アリガトウ……』


 僕はリナから貰った水色の水晶玉を首にぶら下げ、ペコッと頭を下げる。

 ちなみに本日マインは街の冒険者集会に、勇者として顔を出している。


「さ、私達も用意しよっか!」

『ヨウイ……?』


 もちろんエデンもおめかしよー! とウキウキしたリナは黒髪を揺らしながら奥の部屋へと行ってしまった。


『ボク……ゴハンタベレナイノニ…………』



~~~~~~~~~~~~~~~~~


 夜――


 何処か顔の暗いマインを連れて訪れたのは街で一番大きい料理屋さん。


「さぁさぁ勇者さん! たーんと食べて行きなよぉ!!」

「はい……ありがとうございます」


 大柄なおばさんに背中を叩かれたマインは、ははっ、と苦笑いを浮かべた後、はぁとため息をついた。


「で、どうしたの? 何かあった? そんな顔じゃ街の勇者も名折れだよ?」


 白色の可愛らしい服装のリナは、大丈夫? とマインに声をかける。

 ちなみに今リナが付けている赤色のカチューシャは僕が選んだよ。

 そして洋服二枚無駄にしちゃった僕は赤いネクタイを首からぶら下げているだけだよ。

 お洋服ごめんなさい。


「ああ、ごめん。……ちょっとね」

「?」


 一層顔を暗くしたマインは、この近くの街が石龍に襲われて半壊したらしいと重い言葉をこぼした。

 でもまぁ、大丈夫だと思う……。とリナを心配させないように付け加えたマインは、よし、ご飯食べよう! といつもの笑顔を見せた。


『グボォ……』


~~~~~~~~~~~~~~~~


 それから一週間。


 僕の体に異変が起きた――


『ーーーーーー!?』

「エデン!!」


 それはマインとクエストに出かけていた時。


『…………………?』

 

 モンスターとの戦い方を教えてもらい、ゴブリンを倒した直後、僕の体は淡い光に包まれた。


「エデン……もしかして…………」

『コレハ…………』


 敵を倒して経験値を得た僕の体は進化し、【エンドレスライフ】というスキルを手に入れていた――


 この名もスキルの内容も後にマインに教えてもらったものだが、どうやら僕は死なないらしい。いや死んでも生き返ってしまうらしい――



 石龍ガンドレアク襲来まで残り三週間――




 

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