第60話幼い少女の冒険譚6


『グボォォ……』

「お! 起きたか!」


 目を開けるとそこには、さっきまで襲おうとしていたニンゲンがいた。

 ニンゲンは何故か口角を上げ、変な顔をしている。


「聞こえるか? 俺の名前はマイン、こっちがリナな!」

『グボォ……?』


 何故だろう僕の心からあの声は消えていた。襲う気も起きない、むしろ暖かい、感じたことの無い温もりがあった。


「……本当に襲ってこないんだよね」

「大丈夫だってー! 俺を信じろ!」


 起き上がると、少し離れたところで怯えているニンゲンがいた。僕が殴りかかろうとした子だ。

 僕は悪いことをしたのだろう。こういう時どうしたらいいのだろうか。


『グボォォ、グボォォォォ』

「ん? こいつ謝ってるのか? 優しいやつだなお前! ほらリナ! もうこっち来いよー」

「う、うん」


 必死にワタワタしてたらニンゲンが変な顔で近づいてきてくれた。

 嬉しい。


「よし! じゃあ森から出ますか」

「えー、こんな子連れてったら怒られるんじゃ」

「大丈夫大丈夫! 俺が何とかする!」


 俺に任せろー! と大きな声を出したニンゲンは、僕の体を触り、改めてこれからもよろしくな! とまた口角をあげた。


『グボォォ』


 何も分からない僕だったけど、このニンゲン達と居れば僕はもっと色々なことを知り、もっと幸せになれると思えた。

 僕は未だに何者なのか分からない。それでも僕は幸せになるよ――



~~~~~~~~~~~~~~~


 それから僕はニンゲンの住む街に連れていかれ、【エデン】と名付けられた。

 マインとリナは僕の事をとても大事にしてくれた。街の人も最初はとても驚いていたけど、今では近づいてきてくれる。僕はもう一人じゃない。

 そんな平和な日常を過ごしていたある日、リナの叫び声が響いき渡った――


「いやぁぁぁぁっ!」

「んっだよ! うるさいなぁ!」

「また失敗したァァ!!」

『グボォ?』


 黒い煙をモクモクと漂わせたリナは、なんで上手く出来ないのよーー!! と机をバンバン叩いた。

 リナは街、いや世界で一番のアイテムメイカーと呼ばれているのだが、


「もうダメ! スランプだ! 辞める! 私アイテム作るの辞める!」

「おいおいおいおい! それじゃあエデンと会話できないじゃん!」

「うっ……!」


 辞めてぇぇぇ! と頭を振ったリナは、こんなアイテム使っても意味ないのよー! と、失敗作を投げ捨てた。


「ちなみにこの失敗作の効果は……?」


 恐る恐る黒い玉を拾ったマインはこれ何作目だよ……。と失敗作をまじまじと見入る。


「んー、それは数分間四角い部屋を作るやつだね……。時間が経たないと中から出れない監禁魔法……」

「いや普通に強い!」


 ちゃんと閉まっておこうと貯蔵庫に持っていくマインに、翻訳出来なきゃ意味無いでしょー!! とじたばたと足を子供のように動かす。


『グボォォォォ』


 そんなリナを慰めるように僕は暖かい飲み物を渡す。

 すっかり僕もニンゲンみたいだ。


「ありがとうエデン~、私頑張るからねぇ!!」

『グボォ!』


 すっかり僕に心を許してくれたリナはよっし! もう一回! と作業に取り掛かった――





 石龍ガンドレアク襲来まであと三ヶ月――

 

 

 


 

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