第48話抜刀鬼


「ふははっ! 抜刀鬼リーン・エイナムもこんなもんか!!!」

「ちっ、下衆な男は嫌いだよ私は」


ミルクが王女になる二ヶ月前――


 人通りが全く無い路地裏で金髪のロングヘアをなびかせるのはエイリーン。

 そして目と鼻の先で今も笑いながらロングソードを持つのはスキンヘッドの男。見た目と声質から分かる性格の悪さは一級品だ。


「威勢が良いのも今のうちだぞ抜刀鬼、分かってんだろ? 不味いことになったってさぁ!?!?」


 舌を出して挑発するスキンヘッドの男を前に、舌打ちをしながら右足を見たエイリーンは、こんなトラップにかかるとは、私もまだまだだねぇ、と薄く笑う。


「要件は何だい? 金ならいくらでも渡してやる」


 そう言って見つめてくるエイリーンに、笑わせるなよ抜刀鬼、いいからさっさとミルク・サトーの居場所を言え! と、先程までのふざけた態度を辞めたスキンヘッドの男は、ロングソードをエイリーンの首元に突きつける。


「誰だいその人は、聞く相手を間違ってるんじゃないかい?」


 そう言って首を傾げるエイリーンは、しっかりと分かっていた。


(この男、あちらの人間か――)


 王女第二候補ササキナツミ。


 このチア国にいるもう一人の王女候補である。


「はぁ、まだしらばっくれんのか、動けないお前に勝ち目なんてねぇんだぞ?」

「本当に知らないんだから仕方ないじゃない」


 そう言ってスキンヘッドの男は、エイリーンの右足に指を指し、早くしねぇと死んじまうぞ? とばかりにいやらしく眉を吊り上げる。

 そんな挑発にも動じないエイリーンは、そんなこと分かってるわよ、と毒蛇に噛まれた右足を片目で見入る。


 呪詛の毒蛇――


 この毒蛇に噛まれると強制的に行動を制限され、一ミリでも動いたら毒が体を食らいつくし一瞬で死へと誘われる。

 文字通りの悪魔の蛇だ。


「仕方ねぇ、もう死んでもらうわ。こっちとしてもミルク・サトーの背後にてめぇがいるのはちと面倒だしなぁ、ミルク・サトーの居場所が分からないなら仕方ないもんなぁ?」

「はなっから私を殺す気だったんじゃない、嫌な男ねぇ? こんな蛇まで使って」


 それでも男がやることかしらと鼻で笑うエイリーンに対し、それは最もだなぁと笑いながらスキンヘッドの男は口を開く。


「んなもん当たりめぇよ、抜刀鬼なんか恐ろしくてまともに相手に出来るわけねぇ、凡人は知恵で戦わないとなぁ、例えダサくて惨めでもな?」


 そうくくっと笑ったスキンヘッドの男に、居場所を言ったところで私の命は無いのねー、ならさっさと殺しなーと目を閉じるエイリーン。

 義賊として上げてきた功績。

 抜刀鬼という二つ名の元で戦ってきた力は計り知れないものだ。

 これ以上生きる意味なんて無いのかもしれない、人も散々殺してきたし、私は罰されるべきだと潔く死を受け止める。


「潔がよろしいことで……。まぁ、せいぜい……地獄にでも行ってくれやァァァッ!!!」


 動けない相手に容赦しないスキンヘッドの男は、ヨダレを垂らしながら己の得物をこれでもかと振りかざし、今まさにエイリーンのふくよかな胸元を通り心臓へと――



「でもまぁ、こんな私の帰りを待ってる子達がいるからさぁ、死ねないのよねぇ」

「!?」



 刹那。



 抜刀鬼と呼ばれるその力を存分に発揮したエイリーンは、懐から取り出した煙幕と共に風魔法を行使して逃げ出した――



「ごほっごほっ! くっそ何が起きやがった!! ……あん?」


 煙幕が晴れ、何が起きたと先程までエイリーンのいた場所を凝視したスキンヘッドの男は、くくっ、と笑いながら空を仰ぐ。


「おいおいおいおい! そこまでして仲間の元、ミルク・サトーの元に帰りたいってかァァァ!?!?」


 それは抜刀鬼にしか許されない技だった。


 毒が回るよりも早く足を切ることにより、死へと誘わせない捨身技。

 今も大量の血を流すエイリーンの切り離された右足は毒が回り、紫色に変色しながらバタッと倒れる。

 その一連を黙って見届けたスキンヘッドの男は、まぁ上出来かぁ、と不気味に笑いながら得物を腰に収め、意気揚々とその場を後にした――



 

 


 

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