第47話王家と義賊


「今日師匠来ないなー」


 ある日の事。


 毎日決まった時間に来るエイリーンが、初めてこの日ミルクの元を訪れなかった。


「ミルク様、もう日が暮れました、部屋に戻りますよ」

「えーもう少しだけ!」

「ダメです、明日は朝が早いのですからもうお休みになられないと」

「ううう、チェイサーのけち!」

「うっ!」


 無理やり部屋に連れ込もうとするチェイサーの腹をか弱い手で叩くミルク。今日は何かご用事があったのですよきっと、と慰めるチェイサーに抱き抱えられながら暴れるミルクは、師匠大丈夫だよね……。と暗い顔でいつも叱られていた庭をその目に焼き付けた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


そして二ヶ月後――




「今日も来ない……」

「ミルク様……」


 あの日以降一向に姿を見せてくれないエイリーンの事を毎日庭で待っていたミルクは、本日最後の日を迎えていた。


「もう私が王女様になったら、会えないのかな……ねぇチェイサー、私王女なんかなりたくない! 弓だって使えないのに! なんで私が王女にならなきゃならないの!」


 そう言って涙を浮かべるミルクは、当てる場所のない怒りをチェイサーにぶつける。

 そんな我儘娘の背後で黒髪を揺らしたチェイサーは、目を瞑り、大人として、執事として小さく口を開く。


「我々の王女様はミルク様しかいません。ミルク様がなるべくしてなるのです。私は信じています。例え弓が使えないとしても、真意、その心は誰よりもミルク様が王女様です」

「…………」


 そんなチェイサーの優しい言葉にピクっと小さく尖った耳を動かしたミルクは、じゃあ王女様になってエイリーンとも会えるようにする! と不貞腐れたように声を上げる。

 

「そうですね……。エイリーン様、義賊との交友を王家の者がする……。ミルク様なら出来ますよきっと」


 そんな事叶えられるはず無いと知っていても、今のチェイサーにはそれ以外言葉にすることは出来なかった――

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