第49話伝説回復士
「ちょっと何この怪我!!! フラン!! ハイポーションを!」
「分かったわ!」
「おいおい、何がどうなって!」
「ちょっと皆大袈裟ねぇ、足なくなっただけだって」
森の奥、人の目に全く触れない隠れ家で、エイリーンは自室の壁に背中を預けながらそう笑った。
「無くなっただけって、無くすものがデカすぎんだろーが!」
このパーティ唯一の男性キャラであるキールは、何寝ぼけたこと言ってんだ! と声を荒らげる。
「うるっさいわねぇ! 声がでかいのよ! 最近太ってきてたし、無くなって清々してるわよ!」
そんな二人が訳の分からない言い争いをしている中、モモとフランは、早くこれかけて! と金色の液体が入った試験管の栓を抜き、綺麗に切断されたエイリーンの足にドバドバとかける。
「……っ! ちょっとあんた達勢い良すぎ、さすがの私も……っ! 痛いわよ!」
「うるさい! フランは包帯の準備しといて! 私は魔法も追加でかけるから! あとキールはうるさいからどっか行って!」
「ええ!?」
「分かったわ!」
普段おしとやかなモモにぶちギレられたキールは、ごめんなさい。とそのマッチョな体に似合わない程小さくなりながら部屋を後にし、その隣で先程から分かったわ! としか言っていないフランがそそくさと部屋を出る。
そんな二人を見送る暇などないモモは、慣れた手つきで回復魔法の詠唱を開始する――
「――広がれ労り、広がれ休息」
ポーション染みるぅ! と涙目になるエイリーンを置き去りに回復師モモは唄う。
「――汝の声を聞き届けた精霊よ、今此処に記し、咲け、
直後、エイリーンの体は緑色オーブに包まれ、切断された右足へと収束を開始した。
「絶対に治してあげる……!」
ピカピカと輝く緑のオーブは役目を終えたとばかりに一層眩く輝いた後、散るように虚空へ消えて行く、それでもエイリーンの足は治る訳もなく、止血も完璧とまでは出来ていなかった。
「もう一回っ!」
続く、オーブの消失にモモは汗を流しながら叫び続ける――
「まだ! もう一回!!」
失敗。
「まだ!」
「モモ、もうやめて」
失敗。
「まだぁぁぁ!」
「…………」
失敗。
「ま、まだぁぁぁぁぁ!!!」
「もういいから!」
失敗。
やる度に薄くなるオーブ達は諦めろよとばかりに言うことを聞かなくなっていく。
「なんで……! なんで!!!」
仲間の傷は全て治す。それがモモの全てだった。
「まだ……もう……いっ…………」
高等回復師の一部の人しか使えない魔法を酷使したモモの魔力は底をつき、エイリーンの横にグラッと膝から崩れ落ちる。
「私は大丈夫だから、もうやめな」
それらの一連の流れを見ていたエイリーンは、生きてるだけで幸せ者さ、と涙目になるモモの頭に右手を乗せ優しく微笑む。
「ごめん……ごめん……! 私がもっと、もっと凄い――」
「それ以上言うんじゃない。アンタは何も悪くないさ」
「ぐす……ごめん、ごめんなさい…………」
モモの憧憬者である伝説の回復師ならこんな怪我は容易く治せたのかもしれない。しかし、現世界において足の形成まで出来る回復師はいないであろう。
「包帯持ってきたよ……」
「ありがとう、モモ、とりあえず傷口だけ頼むよ」
「……うん」
ガチャとゆっくり扉を開けたフランは全てを悟ったのか、暗い顔で包帯をモモへ渡す。
足はもう戻らない。例え義足という手立てに出ても、もう過去のエイリーンには戻れないだろう。
「モモのおかげで止血出来たし、アンタのおかげで私は今生きてる。ありがとう」
「……………」
それでもモモは、もう泣くんじゃないと笑うエイリーンと目を合わす事は出来なかった――
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