第41話パーティ再結成


 それからというもの、リク達はほんの僅かな休憩を挟みながら、どうにかして三階層への階段に辿り着いていた――



「ふぅ……どうにか辿り着きましたね……」

「私……もう足が動かない……」

「右に同じ……」


 がばっと石の階段に座り込んだミルクとリクは、おぶっていた二人の顔をそれぞれ見入る。

 本当に生きているのか? と聞きたくなるほどの顔の二人を見たルカは、まだ私が踏ん張らないとダメだと改めて気を引きしめる。

 勿論疲弊するの冒険者だけでは無い。己の手にある槍もまたダンジョンの犠牲になっていた。


(これは……大分来てますね……)


 槍先はモンスターを切り裂き続けた結果、刃こぼれを起こし、ガタガタになっている。

 あいにく砥石等という冒険者の必須アイテムは、仲間の手で崩壊させてしまった安地セーフティエリアに全て置いてきてしまっている為、回復も見込めない。


(もう少し持って下さい……)


 今も悲鳴を上げる槍から目を離したルカは、背後でぜぇはぁと息をあげる二人に声をかける。


「行きましょう。ここで立ち止まってもモンスターの餌になるだけです」

「おーけいおーけい……」

「分かりました……」


 更なる修羅場に足を踏み入れる覚悟と共に重い腰を上げた二人は、ルカの優しい笑顔を見てはっとさせられた。


「まてルカ……その……その右腕はなんだよっ!!」

「…………」


 声を荒らげ立ち上がるリクと、早く止血しないと! と慌てるミルクを他所に、ルカは大丈夫ですよ。と笑いながら右腕を隠す。

 彼女の右腕、それは斬られたというより、裂けたという方が正確だった。


「大丈夫……って、そんな腕じゃ……」

「すいません……。さっきワイルドレックスと戦った時不覚をとりました……」


 他人事のように薄く笑いながら足を進めようとするルカを必死に止めるミルクとリク。


「っざけんな……ふざけんなよ! そんな顔して謝んな! いいからもう戦うな! 俺が……俺が戦う! 腕でもなんでも捨ててお前らを逃がす!」

「そんな事無理に――」

「囮だってな……立派な戦いなんだよ! これ以上何もしないで、仲間がやられてる姿なんて……見たくねぇ……」


 約半日前に脳裏に焼き付いてしまった、ボロボロになったミルクの姿と被せたリクは、俺が……俺が……と固く拳を握る。

 それでもリクの頭はしっかりと、残酷な程までに理想と現実に区別をつけていた。


 今の俺じゃ、女の子一人守れない――


 弱い。

 

 それがどれほどまでに惨いものなのか、弱さを知っているリクが一番理解していた。


「それでも……それでもここからは俺がやる……」

「無理です」

「無理でも……やらねぇと……!」

 

 もう後がねぇんだ、と腰にしまっていた魔法書を取り出したリクは、ナナミの事頼む。と、ルカに言葉を残し、ゴクリと唾を飲みながら魔法書を開き、戦いの準備を――


「では、ミルクさん……リンが起きるまで……それだけでいいのでお願いできますか」

「え?」


 ルカの見るに堪えない傷に、もう殆ど破れてしまっている自分の数少ない布を巻き付けていたミルクは、勿論です。と、意志を固めた様に頷く。


「いや待て待て、そこは男である俺が……」


 魔法書と口を半開きにしたリクは、え、ちょっと、え? とミルクとルカの顔を交互に見入る。


「流石に冒険者登録もしていない人に戦わせる訳には……」

「うん……私もリクくんに戦わせるのはさすがに反対だよ……」


 そう言って顔を曇らせた二人を見たリクは、なるほどねぇ。そうだよねぇ。とふわふわ頷きながら、ナナミをゆっくりと担ぐ。


「ま、まぁ仕方ないな! 今回は、今回だけはミルクさんに譲るとしようかな! さてさてナナミの事は俺に任せて、存分に暴れろよな!」


 ぐっ! と親指を立てたリクは半分涙目になりながら、リンを担いだルカと、無属弓ウンエントリアローを構えたミルクと共に、三階層へと続く階段へ足を踏み入れた――


 

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