第40話火竜


「……と言うと?」


 声をなるべく潜め、モンスターに気配を探られないよう細心の注意を払うリクは、つまり? と首を傾げる。

 隣で荒い息を吐きながら重い足を進めるミルクは、その意味を理解したのか、仕方ない……ですね……。と顔を背ける。


「まてまて、そんなにやばい事なのかよ! ……って、まさか、立ち上がらない同胞って……」


 そう言ってルカと視線をまじ合わせたリクは全てを悟った。


 死体荒らしだと。


「勿論こんな時だからです……私達は綺麗事を言っている暇がないほど追い詰められている。分かってますよね?」

「あ、あぁ。それは確かにそうだけど……」


 正直この場の誰よりもその意見にリクは賛成できた。

 それは背負うものが余りにも少なすぎたためだろうか。

 ある者はパーティのリーダー、上級冒険者、国民から愛される冒険者として顔を背け、ある者はいち女王として顔を背ける。

 それでも誰もが理解していた。


 汚れなければ生き残れないと。


「3階層には最初にイレギュラーを報告してきたパーティの方々や、その他の冒険者の死体が転がっているはずです。私達はその人達から恩恵を頂きます」


 そう言って先頭を歩くルカは、それまでは何としてでも持ちこたえてみせます。と、浅く笑った――



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 

――?階層


「けっ、やっとこれだけかよ……ッ!」


 赤毛の男はそう言うと、殺戮という形で苛立ちを露わにした。


「オラァァァァッ!!」

『『――!!』』


 杖から発される炎の渦と男による烈火の回し蹴りは近くを彷徨いていたゴブリンの集団を一掃し、断末魔も発させること無く塵と化した。それに伴い、犠牲になったダンジョンの壁もまた、ボロボロと音を立てながら岩壁を崩壊させる。


「ったく何時間やったと思ってんだッ! 3人は帰ってこねぇし、どんどんアイツの臭いは濃くなるしよォォォッッ!」


 そう言って赤い杖を乱暴に振り回す男は、隣でずっと動かない怪物をペタリと触ると同時に、不気味な笑みを浮かべる。


 まるで諦めるかのように、



 全てを終わらせようとするように――

 


「ったく、もうお前しか居ねぇわ……。俺、魔道士ガランディア・サインが命ずる――」


『グガァァ……』


 闇の中に溶ける怪物は、冷徹なガランディアの言葉を耳ではなく身体で聞き取る。

 怪物は理解していた。下層に住むはずの自分がこの男に屈服しなければならない理由を。


「アイツ……あの憎き女をズタズタに引き裂いて、血の一滴も残らないように殺してこい……いや、燃やし尽くせッッッ! お前の……火竜のその力でッッ!!」



『グガァァァァァッッッッッッッッッ!!!』

 


 圧倒的強者のガランディアを前に、手も足も出なかった怪物火竜。



 そしてまた、ガランディアを殺しかけた怪物として、私は罰を受けなければならない――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る