第32話立ち寝


「どうするっていってもな……」


 遠くから聞こえるモンスターの声に耳を済ませながら、俺はナナミの顔を見る。


「ごめん、変なこと言って」

「いや別にいいけど……まぁ、その質問に答えるなら――」


 無かった事にしてとうずくまるナナミを他所に、独り言のように天井を仰いだ俺は一言、


「それでもお前同じ家族かよって言っちまうかもなぁ」


 と、何も考えずに答えてしまっていた――



~~~~~~~~~~~~~~~~



「ナナミ、リクさん、お疲れ様です。もう寝ていいですよ、私が見張るので」

「おお、やっと寝れるぜー!」


 

 見張りの時間が経ち、時間ピッタリに目覚めたルカは、自分の槍を持ちながら、入口で待ちくたびれた俺と、キャラ変更しまくって超静かなナナミに、交代の時間を告げた。

 特に問題もなく二時間が経った訳だが、ナナミの気落ちぶりには参ったものだ。


「ほら、ナナミも早く寝ようぜ」

「うん……」


 ルカとアイコンタクトを取りながらナナミに声をかけた俺は、お前の杖やっぱかっこいいな! と、苦し紛れの励ましの言葉を送りながら、ミルク達が寝ている所に足を進める。

 

(どうしよう。なんでこんなになっちゃったかなぁ!)


 下ばかり向くナナミをちらちら見ながら、俺なんかしちまったかな……と考えつつも、ほな、おやすみなさいーと逃げるように俺はリンの隣に置いてあった寝袋に足を入れる。

 

(まぁ明日には機嫌治ってるでしょ……って、おい待て……なんか温いんだけど……)


 体を半分入れたところで気づいてしまった。


(そういやここでルカ寝てたな……)


 見張りの時に散々寝姿を見ようとチラ見したせいで覚えている。

 ここは間違いなくルカが寝ていた寝袋だ……。

 あかん理性が! とワタワタする俺を他所に、新しい寝袋をバックパックから取り出したナナミは無言のまま寝てしまった。


(やばいなんかルカの匂い? なのか分からんけど、凄い甘い匂いする……!)


 人数上仕方なく一人で見張りをしているルカの姿を思い浮かべながらモンモンとする俺は、ええい! と、深呼吸をしながら足を奥に入れていく。


(あ、ソワソワする、あっ、なんかぬちょぬちょして、あっっ! なんか足に絡みついてっ!)


 絡みついて?


 は? と恐る恐る中を覗いた俺は絶句した――


「なんか……心臓というか……内蔵みたいの湯たんぽ代わりにしてたのかな? ははは……」


 血に染まりつつある自分の足を見ながら俺は恐る恐る体を寝袋から出し、ブツを手に持ちながらルカの元へ戻る。


「おい」

「何ですか?」

「これ何」

「何ってゴブリンの肝臓ですねそれは。甘い匂いするでしょ! デザートにはピッタリなんですよね!」

「そっか俺が興奮してたのはゴブリンの肝臓だったか。そうかそうか……。一発鼻くそ付けていい?」

「いや汚いんでやめてください。セクハラで訴えますよ……」

「…………」


 ゴミを見るような目で俺を睨みつけるその姿は、電車で痴漢にあった、か弱い女性のようだった――



「さぁて、立って寝るかぁ!」


 

 俺の魔力回復の為にとか言ってたのどこいったんだろ! と、満面の笑みで立ち寝した俺は、次の日寝不足レベルマックス確定でしたとさ。


 めでたくねぇ、めでたくねぇ……。




 



 


 

 

 

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