第33話剣王と剣姫
「お前は本当にすごいなぁ、さすが俺とママの子だ!」
「そんな事ないよパパ……」
「いいえサリラ。あなたは凄い、このまま私たちを超えて行きなさい」
「はい……」
「ふん! テリラだって超えるもん!」
「テリラは私には勝てない……」
「うるさい! お姉ちゃんのバカ!」
「あはは、大丈夫よテリラ。あなたもきっと強くなれるわ?」
「やったぁ! おっきくなったらママに剣の振り方教えてもらう!」
「おいおいパパは嫌なのかい?」
ははは! と笑いに包まれる暖かい家族。
ここはゲードナー一族が住まうひっそりとした家。
町外れに建てられたこの石だけで出来た家は、派手なものがあまり好きではない父、テンペスト・ゲードナーの個人的な趣味だ。
剣王テンペスト・ゲードナーと剣姫サキュリーゲードナー。その二つ名を持った二人が結婚した時は、街の皆がバカ騒ぎしたものだ。
そんな有名人二人が外に出れば、お子さんは出来たのかい? ちゃんと子作りしてるのかい? と、プライバシーズカズカの街人に話しかけられる面倒臭い生活が数ヶ月続いた。
そんな生活に嫌気が差した二人は、この誰もいないひっそりとした所に住む事を決めたのだ。
「じゃあママは夕飯の準備してくるから」
そう言って笑顔のままキッチンに向かおうとするサキュリー。それを阻止するように袖をクイっと引っ張るのはサリラだ。
「ねぇママ、ナナミは?」
タレ目が可愛いサリラは、無垢な表情でサキュリーの顔を見上げ続ける。
そんな顔に己のブロンズの髪を手ぐししたサキュリーは、誤魔化すように不器用な笑顔を浮かべ、小さく口を動かす。
「あぁ……あの子はね――」
そんなサキュリーとサリラのやり取りを他所に、テリラにつつかれたテンペストはやったなぁ! とテリラの脇腹をくすぐるが、
(…………)
この時ばかりは己の能力に舌打ちをしてしまう。
その研ぎ澄まされた耳はどんな些細な物音までも拾ってしまう。モンスターとの戦闘を長年続けて来たが故の能力だ。
どんなに小声で話され、どんなに集中力をとぎらせれていようとも聞こえてしまう地獄耳。
そんな耳は聞きたくない名前を聞き取り、反応に困るサキュリーの顔をつい見てしまう。
「……あ! そうだママ! 今日は外食にしないかい? この間美味しそうな店を見つけたんだ! サリラとテリラの好きなハンバーグ屋さんだぞぉ!」
「え! 行きたい! 行きたい!」
「あ……そ、そうね! 今日は外食にしましょう!」
「…………」
サリラの質問を上書きするように声を上げるテンペスト。
その救いの手を握ったサキュリーの目は笑っていても口は笑っていなかった。
「ナナミ…………」
父の声に両手を上げて喜ぶ妹とは裏腹に、一人俯くサリラは、ピンク髪が特徴的な女の子がたった一度だけ見せた笑顔を思い浮かべ、顔を曇らせた――
この日、剣王と剣姫の子供サリラ・ゲードナーは、特殊剣技
~~~~~~~~~~~~~~~~~
あぁなんでこんな事思い出させるんだろう、私の脳は……。
夢。
それはナナミの脳裏で繰り広げられた悪夢という昔の現実。
頭を悩ませながら見張りを終え、すぐさま寝袋に入ったナナミは、数分で眠りについていたのだが――
(あぁ、嫌だなこの夢……確かこれ、私が7歳くらいの時だったよね……ふふ、私この時押し入れに隠れてて全部聞いてたんだっけ……)
目覚めようにも目覚めれない体に抗うことなく自嘲したナナミは、またしても苦い過去を思い出す為に深い眠りへとついたのだった――
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