第23話拳


『ゴガガガ……』

「くっ……!」


――【ゴーレムナイト】


 それはゴーレム族の執着が飽和した時に産まれるモンスター。

 執着などという感情を手に入れるのは、下層にいる【エンペラーゴーレム】などのゴーレム族のみとされているため、上層部にいる【サンドゴーレム】や【アイスゴーレム】ではこんな奇跡は起こらない……。


 筈なのだが――


『ゴガ……ゴガッッッ!』

「――っ!!」


 しっかりと人の形をした土の兵士は、体を前方に傾けるのと同時に奇妙な声と共に疾走する。

 そんな中でもピクリともしないリクに口元を歪めた【ゴーレムナイト】は、嬉嬉として岩腕ロックアームの硬さと同等とも取れる身体を素早く動かし続ける。

 直進と跳躍、回転による方向転換、右往左往と駆け回る【ゴーレムナイト】にリクは一歩も動けない。


「なんなんだこいつッ! 速すぎる!」


 残像が現れるレベルまで速度を上げた【ゴーレムナイト】は、棒立ちのリクに向け、自作した土剣サンドソードを上段に構え、思い切り斬り掛かった!


『ゴガガッッッ!』

「……ぐっ!!!」


 それさえも捉えられないリクは呆気なくガラ空きとなっていた背中に一本の血線けっせんを走らせ、痛みが襲うのと同時に反射的に膝から崩れ落ちた。


「や……べぇな……これ……くそいってぇ」

『ゴガガガッッッ!!』


 反撃だとばかりに赤眼から色を変えた蒼眼を輝かせ続ける【ゴーレムナイト】を見て、冷や汗を流したリクは、痛みさえも捨て置けと脚に力を無理やり入れ、風を使った。


「くっそっ……がッ!!」

『ゴガァァ!?』


 残り九回となったアウトバーンをなりふり構わず行使したリクは、【ゴーレム

ナイト】同等の速度で距離を詰め、遠心力を最大に利用した渾身の一打をくらわせる。

 手に持っているのは一角の針ギフトニードル。少し前に随分と苦しめられたこの凶器に存分な信頼を置いて全力で振るった、


 のだが……。


「あっ……!」


 ビキリと、不穏な音と共に縦に亀裂を入れたのは【ゴーレムナイト】では無く、リクの手の中にある獲物――


「おいおい、俺お前がないと……っ!」


 亀裂の入った一角の針ギフトニードルを涙目で見ながら【ゴーレムナイト】から瞬時に距離を取ったリクは、これはまずい! と頭をフル回転させる。


(使えて残り1回……。もうそこで決めないと……)


 他の魔法を発動させる為の時間が無いことを悟ったリクは、舌打ちをしながら腰を落とす。

 いつでも逃げれるようにしゃがんだ状態で【ゴーレムナイト】を睨みつけた末に、リクはある決断をした。


(残りの風で探すか……)


 一撃必殺を許される敵の弱点。



 生命の糸――



 それがどこにあるのか分からない今、一撃必殺は見込めない。

 ならば探してしまえばいいと、深く息を吸ったリクは、一発逆転を狙う為に風を信じる。


(分からねぇけど、あいつも馬鹿じゃねぇだろ……だったら!)


 リク同様睨みつけたまま腰を落としていた【ゴーレムナイト】が痺れを切らして飛び出した瞬間、リクは手帳をミルクの方に投げ捨て、右手で硬く拳を握り、


「我慢比べの始まりだクソがァァァァッッッ!」

『ゴガァァァァァァッッッ!』


 リクが考えた作戦、それは、



 守りたい生命の糸そこは一番硬い筈。なら俺の手で一番硬いところ確かめればよくね?


 

 という、腕の事を一切考えないゴリゴリパワープレイな作戦だった――


 

 

 

 

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