第22話再戦
『ゴォォォッッッ!』
「……!」
ダンジョン四階層――
【サンドゴーレム】の目の前で目覚めたリクは、すぐさまバックステップで距離を取る。
(本当に戻ってきた……)
背後にいる傷だらけのミルクをチラと見た後、リクは【サンドゴーレム】を再度睨み付ける。
(さっさと魔法を使うか……今度こそ失敗しないように!)
『ゴォォォッッッ!』
戻ってきたリアクションをしている場合じゃない現状に、ふざけろと苦笑したリクは、右手に持った手帳を読み進める。
脇腹の痛みを我慢しながら――
『ゴォォォォォォ!』
「うっせーなぁぁ!」
苦しい表情のまま【サンドゴーレム】の
この生き返りは決して便利じゃない。ただ死んだポイントの少し前に戻るだけ……。
怪我の完治もせず、目の前の化け物が消えることも無い。
そんな現実を思い返したところでリクの脚を止める理由にはならない。
それほどまでに抱えているものが大きいと気づけたから――
「――風を斬れ」
開始する。
もう何度目かも分からないアウトバーンの詠唱を……。
正確に、的確に読み進めれるよう、リクは全身全霊で詠唱文と【サンドゴーレム】を器用に見る。
『ゴォォォォォォッッッ!』
そんな冷静なリクとは対象的に、魔力を感じとった【サンドゴーレム】はそんなことさせる訳には行かないと、リクの口を封じるように暴れ出す。
横薙ぎに振るわれる
地団駄とも言えるその攻撃を初めて見たリクは一瞬肝を冷やしたが、間一髪で髪を靡かせながら回避する。
焦りが生む単調な攻撃の数々――
「――奏さえも切り捨てるその
『ゴォォォッッッッッッ!』
死んだ時と同じ行動をしているのに敵の動きが変わった事にリクは少し喜んでいた。
それがたまたまなのか、目に見えない
それでも、後者である事を何となく感じ取っていたリクは笑みを零す。
(俺の本質が変わったって所かな――)
自信が死ぬほどある訳でもない。
それでも、マーリンが支えてくれる。ミルクを守りたいという気持ちがある。
負ける訳にはいかない――
敗北という二文字を二度と見る訳にはいかないと、リクは声を張り上げながら詠唱を倍の速度で読み進める。
「――訪れる精霊の加護と共に行進せよ、波をも捨ておき、波紋を広げる
『ゴォ!?』
マーリンの姿が乗り移ったかのように魔道士の姿をやりこなすリクは、右手を前に突き出し、
叫んだ――
「アウトバァァァンッッッ!!!」
『ゴォォォ!?!?』
先程とは違う。速度が低下した分と言ったところだろうか、リクの周りには白い風が纏わり、立派な魔法として成立していた。
それでも充分速い高速移動に【サンドゴーレム】は声をあげることしか出来ない。
「ふっ!!」
『ゴォ……!』
脚に力を入れ【サンドゴーレム】の首元まで高速跳躍したリクは振るった。
かつての敵の遺品を――
「さっきまで殺されかけたやつに助けてもらうとか……。笑えるぜ」
『ゴォォォッッッ!!!!!』
手帳の代わりにリクが装備したのは、【ギフトビー】のドロップアイテムである、
その特性の理解など到底していないリクは、素手よりマシだろと軽い気持ちで行使したが、
それは状態異常耐性の無い【サンドゴーレム】に致命的な一打。
『ゴォォォ、ゴォォォ、ゴォォォッッッ!!』
針の深層から溢れ出した毒液の効果で苦しむ【サンドゴーレム】は、狂ったように壁を殴打しながら暴れ回る。
「これ……いけるかっ!?」
たった一度の攻撃で壮大なリアクションをとる【サンドゴーレム】に勝機を覚えたリクは自然と笑みをこぼす。
魔法スゴすぎ! と今も体に纏っている白い風に触れながら、左手に持ち変えた手帳と右手に持った
「よし、今のうちに……」
リクが壁に頭を打ち付ける【サンドゴーレム】を警戒しながら、壁にもたれているミルクの元へ向かおうとした、
その時だった。
『ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!』
「――!?!?」
それは怒り、苦しみ、仮装の冒険者だった人間にやられた羞恥……。
それらの感情が生んだ、
『ドゴォォォッッッ!!』
「なんだよあれ!」
ただただ呆然と見入るリクに紅い眼光を輝かせた【サンドゴーレム】は、身体を眩い光で包みながら収縮し……。
土の兵士に姿を変えた――
「……なんで……ゴーレムナイト……が、ごほっごほっ!」
「ミルクっ!」
異様な声に意識を取り戻したミルクは蒼白の表情を浮かべながらそんなことを呟いた――
ピコン――
《英雄魔道士の魔法アウトバーンを覚えました》
瞬時に加速させる風の回数は十回。
回数を消費する度に風が減ります。
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