第21話英雄魔道士と後継者


 死んでいる――


 そりゃそうだ。俺が今死んだ状態で、あの世界に戻るという事ならば、ここは死後の世界という訳だ。


「じゃあお前……幽霊なの?」

「うーん。まぁそんな所かなぁ……」

「oh……」


 はて? と人差し指を口に当てるマーリンは、ここの空間も私が魔法で作った場所だしなぁとブツブツつぶやく。


 どうやらこいつは世界すら作り上げることが可能らしい――


 うん。魔法ってしゅごい!


「だからお願いー! 死んでも一応復活できるしさぁ! いいじゃぁぁん!」

「いやもう二度と死にたくないね! まじで嫌な気持ちになる!」

「じゃあ死なないくらい強くなりなよ!」

「うぐっ……」


 いきなり真っ当な事を言われ言葉を詰まらせながらも、俺は反論とばかりにそっぽを向く。

 そんな俺に、でもミルクちゃん助けたいんじゃないのぉ? とマーリンはにやけながら杖を掲げ妖艶と輝かせる。


「ば、ばろぉ!!! お、俺がそんな、無駄な……!」


 はいそうです。


 正直今すぐにでも帰って助けに行きたいです。たとえすぐ死んだとしても帰りたいです。すごく心配です。

 別にあの世界に帰りたいとは思わないが、ミルクだけは助けたい。その気持ちに偽りはない……。


「まぁ、また死んだらおいで?」

「だから俺はもう死なねぇ!」

「はいはい! 分かった分かった!」


 サンドゴーレムの赤眼を思い出し、唇を噛んだ俺を見るなり笑ったマーリンは、俺の首元にまた顔を近付ける。


「大丈夫。使うのよ、使えないもの、使われてないもの、果たしてそれは敵なのか味方なのか、先入観を捨てて概念を打破して、それを全て見つめ直しなさい――」

「……?」


 俺にはその言葉の意味を理解することは出来なかった。 

 見つめ直す必要性、客観性の大切さは分かるが。使えないものを使う? 敵か味方か? 

 まだまだ足りない己の頭に苦悩し、わからん! と俺は重力に従って頭を項垂らせる。


「そんなに考えなくても大丈夫! 私はあなたを選んだ! それだけで凄いんだからね! 最強の元魔法使いが太鼓判を押してあげる!」


 杖を俺にかざし、さぁ戦って来なさい! と転送魔法を唱えながらそんな言葉を送ってくるマーリン。俺はその満面な笑みに対し、変態に言われてもなぁ……。と顔を歪ませるが、俺の心には不覚にも大きく響き、勇気を貰っていた――



「まぁ気をつけて行ってらっしゃい。私の可愛いえ##*?※!」

「え…………?」


 聞き取れない言葉と共に現れた紫色の魔法陣に包まれた俺は、聞き返すことも出来ないまますぐに意識を失い、真紅の光に包まれながらダンジョンへと転送された――


~~~~~~~~~~~~~~~~


「ごほっ、ごほっ……もう後がないわね……」


 しんと静まり返った部屋で咳き込んだマーリンは、杖を定位置に戻し、呟いた。


「大丈夫。あなたならきっと乗り越えられる……あなたのお母さんとの約束、絶対果たすから……」


 そこには先程のふざけた魔道士では無く、一人の大人の女性が、心から夢を願う姿があった――

 

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