第6話ダンジョンという惨い死刑宣告


「んで、何故こいつがいるんだ……?」

「はい……。何故かこの者が、死刑になるくらいならダンジョンに行かせてくれと頼みはじめまして――」


 事情聴取の際にお世話になった、質素すぎる部屋にて――


 俺は爆ツイ(爆乳ツインテール)と共に、目つきの悪い警察の元へ乗り込んでいた。

 

「そうだそうだ! この子ダンジョンに行くんだろ? だったら俺もその罪でいいからこっから出してくれ! 死刑だけはごめんだ!」


 隣に座っている爆ツイを指さしながら訴える俺を、じっと見つめた目つきの悪い警察は、コホンと咳払いをした後、理解し難いと口を開いた。


「分かっているのか? ダンジョンで死ぬということは、飢え死にしたりモンスターに食いちぎられるということだぞ? それに、運が良ければダンジョンを出られると言っても、自分が見てきた限りでは極わずかな人しか帰って来れていない。それに比べ、死刑なら楽に死ねるのだぞ? なんならダンジョン転送が決まった者は、涙を流しながら死刑を選ぶ者だっているのだ、本当にいいのか?」

「え、そんな怖いの……?」


 聞いてない。てか全然考えてなかった――


 ダンジョンとか言う元の世界では聞き慣れない物にちょっと興奮して、興味本位で行きたくなっちまってただけだし……。

 冷静に武器や防具も無く、薄着一枚で転送されると考えたら、一度もダンジョンに行ったことのない俺でも分かる。


 自殺行為だと――


 爆ツイは隣で大人しく座っているのかと思えば、すげぇ小刻みに震えてやがるし、こいつはダンジョンの怖さを知っているのかもしれない……。

 正直一人で転送となれば拒んでいたかもしれないが、この子がいるなら何とかなるだろうという訳の分からない自信もあった為、こんな軽はずみな行動をとってしまった。


 冷静になってちょっと、いや……すげぇ後悔してきた――


 俺は、さすがにまずい……!と、下手くそな口笛を吹きながら天井を仰ぎ、何か言い逃れする方法は無いかと考える。

 そんな姿を見て、俺が怖気付いた事に気づいたのか、目つきの悪い警察はニヤリと口を弓なりにし、腕を組んで椅子の背にもたれてふんぞり返った。


「ふんっ……!」

「……ッッッ!」


 バカうぜぇぇぇぇ! 椅子壊れればいいのにっ!!


 俺を見るなり嘲笑う警察に頭にきた俺は、震えを超えて口を開けたまま固まる爆ツイに耳打ちをする。


「実際のとこ、お前強かったりしないのか? なんかほら、魔法とかあるんじゃねぇの? この世界ってさ!」


 ごにょごにょとした声を聞いて、はっとしたのか、爆ツイは口を閉じて顔をこちらに向ける。


「……っ!!」


 か、可愛いッッッ!!!


 急に顔向けられたもんだからちょっとこっちもドキッとするじゃん!?

 近くで見れば見るほど可愛らしい顔に俺は頬を上気させる。

 くりくりな目に、ぷるんとした艶のある唇――

 どこを取っても抜け目のない顔立ちに、俺は半分心を持っていかれてしまっていた。


 てかこんなに俺と顔近づけれるって事は……俺のこと好きなんじゃね?


 イケメンが聞いたら涙を流してしまうほど単純すぎる俺を嘲るように、艶のある唇を開いた爆ツイは、俺の耳元に口を近づけ、さっきの子供っぽい声ではなく大人びた声で――


「君……口臭い…………」

「………………oh......」


 会心の一撃を食らわせて来た――


 いきなりの事でショックを受ける俺をチラッと見た爆ツイは、あからさまに嫌な顔をした後、鼻をつまみながら顔を遠退けた。



 やべぇ泣きそう……。



 シンプルに嫌われた俺はなんかもう、心の底から真顔だった。

 今日の朝ごはんに出された、よく分からない肉の入ったパンがダメだったのかなぁとか思いながら――

 今もちょっと嫌な顔をする爆ツイを改めて見た俺は、小さな声でごめん。と謝ったあと申し訳ないとばかりに下を向く。


 訳もなく。


 俺は開き直って息をふきかけていた――


「ふーーー! ふーーー! ふはは! どうだ手錠を繋がれたお前は逃げれぬまい、はーはっは!」

「……最低」


 あーはいはい知ってた知ってた、人っていうのはこーいうもんだよなァァァッッッ!!


 不信から怒りへと変えた爆ツイは、殺意を込めた目でこちらを睨みつけてくる。


 今更知らねぇよ! もう誰も信じねぇ! ふひゃひゃひゃと、椅子から勢いよく立ち上がった俺は、怒涛の勢いで最後の切り札を召喚するッッッ!



「あ、よく考えたらさ、こいつはダンジョン行き確定でしょ? 俺はまだ罪決まってないから牢屋で寝てくるわ! また明日になったら呼んでくださーい、皆おやすみー!! ――せいぜい一人で頑張れよ爆乳野郎」

「お前、ぐうの音も出ない程クズだな――」


 うん。その言葉にぐうの音も出ないよ警察さん。


 最早恥の塊である俺は、もういい! どうとでも思え! と、やけくそになりながら扉に手をかける。

 すると、待てっ! と俺を止めた目つきの悪い警察は、再び嘲笑い……。


「決めた。お前とミルクを3階層第6エリアに転送する」

「はぁ?」

「り、リーダー!?そこは確か……!」


 突如として言い放った言葉に一番動揺したのは、先程ミルク(爆ツイ)を引っ張っていたあの警察だった。


 てかどうでもいいけど、その爆乳で名前がミルクとかもう、それのそれであれのあれだな……。


 チラッと顔を見るついでに谷間を見た俺は、今度どさくさ紛れに触ってみようと心に誓う――


「じゃなくて! 俺もダンジョンに飛ばされんの!?嫌だぞ! 俺は行かん!」

「待ってください! 私もそんな所行きたくありませんっ!!」


 胸の事を一旦忘れた俺と動揺を隠しきれないミルクが牙を向けるも、目つきの悪い警察は首を横に降り――


 今日一番の笑顔を見せた――


「君達の運を見させてもらいましょう……。ふふふ、では――行ってらっしゃいませ、罪人共?」


 そんな氷のような冷たい声で言い放たれた次の瞬間、反論する間も与えられなかった俺達の視界は真っ赤に染まり、一瞬で意識を失っていた――


 

 

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