第5話汚らしい冒険者はここにいます
「ここに入っておけ」
「…………」
そこは最早、禍々しいという言葉だけで説明が足りてしまう程の牢屋だった――
薄暗い上に、紫色の結界が張られた鉄格子。唯一あるのはまさかのおまる。うむ、トイレのグレードダウンは聞いていない。寝る場所に一応使っていた藁もないし、確実にこの結界にお金かけすぎたんだろと思わせる簡易ぶりに、俺は感情を失った。
「まじで死刑とかになったら俺どうなるんだよ……まぁ、死刑の前に、今日一日で死んじまいそうだけどな……膀胱とか爆発して死にそう――」
アヒルの形をしたおまるを冷めた目で見ながら、膀胱爆発して死んだ結果、元の世界に戻れました! ハッピーエンド! ちゃんちゃん! とかになったらどれ程良いものか……と、淡い期待を胸に抱きながら座った俺は、試しに鼻くそを鉄格子に向けて飛ばしてみる。
なんで鼻くそを飛ばしたのかは俺にもわからん。
「鼻くそぉぉぉぉジョッッドォォォォッッッ!!!!」
やけくそモードの俺が、必殺技みたいに叫びながら人差し指で飛ばした鼻くそは、リニアモーターカーのように真っ直ぐに鉄格子を抜け、結界に辿り着いた!
その時だった――
ジュゥゥゥ――
俺の大事な
いやこっわっ!!!!
少しでも抵抗して鉄格子に手突っ込んだら消滅してたじゃねぇか!!!
今も結界から発生する黒い煙を見た俺は、恐ろしすぎるこの結界っ! と、高速で後ずさりをする。
しかしその時! あの音色が俺の脳裏に響いたッ!
ピコン――
《狙撃魔法ハナクソショットを覚えました――》
いやいらん。
どこの世界にそんな汚い魔法名で戦う冒険者がいるんだよ。
そんでもって無機質な声で淡々と鼻くそと申すものだから、ちょっと笑っちゃうじゃん。
声を思い出して変な顔で笑いをこらえる俺は、とりあえず一応見とくかと魔法リストを開く。狙撃魔法と書かれた隣の詠唱の欄には、ハナクソジョッドと書かれており、効果の欄には、自ら生成した
「いや、俺友達いねぇから!! ぶっ殺すぞ!!!」
多分ツッコミどころそこじゃない――
確実に実用性がないと思われる魔法をなかったことにした俺は、あぐらをかきながら頬杖をつき、自分に与えられた、魔法を勝手に覚えてしまう能力の使い道を考えてみる。
「うーん…………わかんね!! マジでわかんねぇ! 誰か取説持ってきてくれ!」
なんにせよ今のこの情報量では何も出来ねぇなぁと結論づけた俺は、詰んだなと白目をむく。
「ダメだ、なんも思いつかねぇぇ。とりあえず死刑にならないことだけ願うか……」
目を瞑りながら、もう死ななければいいかと常識的に考えるが、正直この世界の常識が分からない。いっそ死んだ方が逆に楽なのではないだろうか……。
「きえええええええええっっ!」
事情聴取の時に相手をしたあの嫌な目つきの警察の顔を思い出し、一泡吹かせてやりてぇ! とも思うが、今の俺には何も出来ない……。ハナクソショットも使えないしな。――そもそも使いたくないけども。
「むむむむむむむむむっ!」
やはり考えても無駄かぁと、眉間にシワを寄せた俺は、諦めて冷たい石畳に顔を近づけ、横になる。
その時だった――
コツコツという一定性のある警察独特のブーツの音と、ぺたぺたという乱れた裸足の音が近づいてくる。
「誰だ?」
床に影が現れた直後、ワインレッド色のツインテールを揺らした女の子が現れ――
「ほら、早く歩かんか!!」
「いやいやいやいやぁぁ!! 行きたくない!! ダンジョンにとばされたら確定で死んじゃうじゃぁぁん!!」
「だからそれが罰というものだろうが!!! 戯けっ!」
手錠を引かれた爆乳の女の子は、なりふり構わず泣いていた――
「そんなの死刑より辛いよ!! 無理無理! 私無理ぃ!」
「うるさい! ダンジョン転送で済んだだけいいと思え! 運が良ければ生きて帰って来れるのだぞ!!」
「無理ぃぃぃぃっ!!!」
警官が手に持ったムチでビシビシ女の子を叩くが、女の子は気にせず泣き散らかす。
そんな悲惨な状況を鉄格子越しに見せられた俺は、
何故か興奮していた――
「おおお! もっとやれ警察っ! 揺れてるぞ! 揺れてる揺れてる! マグニチュード7.8くらいだ! おっ! あー惜しい! もう少しでポロリだったのにっ!」
――正直自分でもひいた。
その場の誰もが俺の変態的言動に動きを止め、フリーズしていた――
――ピコン
《絶対零度魔法ヘンタイノキワミを獲得しました――》
「お! 俺に合った魔法だな! …………ってやかましいわっ!」
これが俺と爆乳ツインテールの運命的な出会いだった――
うん。零点。
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