第3話牢屋で初めての夜迎えました
――牢屋
俺は今日初めて異世界で夜を過ごします!
牢屋でね!!
「まじで死のっかな…………」
あの後地下にある牢屋にぶち込まれた俺は、薄汚れた布で作った簡易的な服を着せられ、トイレと雀の涙程の藁しかない牢屋で、ただひたすらに正座していた。
もう痛みなんて感じない。体より心が痛すぎる。何がどうしてこんな目に合わなくてはならないんだと心で泣く俺は、落ち着くんだと精神を統一する。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏――」
取り調べは明日。俺が挽回するのはそこしかない。しっかり拷問場にいた事を伝える事が出来ればいいが、あの部屋の場所も分からないし、あの場所を知っている人がいるのかすら分からない……。
それでも抗え、どこまでも抗え、牢屋にぶち込んだあの警察みたいなやつが、多分死刑だから最後の夜を楽しめとか言ってたのは気にしない!
「南無阿弥陀仏なむなむななななな――」
いや気にするわっ!!!
なぁにそれ!?ちょっと裸になっただけで死刑なの!?そんなん法律ガバガバじゃねぇか! 人殺したら何? どうなんの? 死刑超えたもんなんてあんの!?いきなりハードル上げすぎなんだよくそ世界がよぉぉぉ!!!
申し訳ない程度にある窓を覗きながら涙を流した俺は、膝から崩れ落ちる。
「あかん……もうこの異世界のスピードにわいついてけへんわぁ……」
圧倒的添削力ならぬ圧倒的スピード的展開に頭がショートした俺は、完全に思考を停止させていた。
正直? まじで今現実なのかも分からないし? もういいよ! 寝たら案外元の世界戻ってたりするかも知んねぇだろ? 寝よ寝よ! もう寝ちゃおっと!
もうどうにでもなれー! と、藁にダイブしておでこを打撲しながら眠りについた俺は、悪夢すぎるだろ……と、うなされながら意識をゆっくり手放していき――
ピコン――
《異世界転移によるラグの修正が完了しました。只今よりオートアシストを開始致します。尚、修正時に手に入れた魔法、タスケネクレを魔法リストに登録致しました。詠唱、効果は魔法リストを開いてご確認してください》
「え、今なんか言った?」
女性の声が脳裏に響きワタワタして目覚めた俺は、なんだってぇ? と、半分寝ていた意識を覚醒させる。
「魔法? そういや俺が拷問場で急にテレポートした時……」
拷問場で追い込まれた時に、頭の中で嫌なノイズ音が走ったことを思い出した俺は、直ぐに納得していた。
「あの時俺は、知らぬ間に魔法を使ってたって訳か……ん? てことは、もしかしたら今の状況も打破出来るのでは?」
かすかに見えた希望に俺は目を輝かせながら、魔法リスト展開を試みる。
「魔法リスト展開! とか言ったら開けたり――ってうおわぁ!」
案の定俺の言葉に反応したのか、魔法リストと書かれたウインドウが突然目の前に現れた。薄い青をベースとしたそこには、白文字で緊急離脱魔法タスケネクレと書かれており、詠唱の欄には(たすけねくれ)と書かれていた。
随分ヘンテコな詠唱だなと思いつつも、効果の欄を血眼になって読むと、
「効果、テレポート。一度行った場所に行ける。初回だけはランダム……使えない条件、自分の身に危険が及んでいない時、仲間と行動している時……っと。強すぎて笑えるんだが」
ぼっちの俺にもってこいの魔法に歓喜した俺は、異世界最高かよ! と、飛び跳ねながらさっそく詠唱を試みる、
「よし! 詠唱はこれだもんな、たすけねくれ!!!」
シーン――
「いや、辞めて? こんなヘンテコな詠唱なるべく言いたくないんだからさ? あと一回だからな? うっうん…………。たすけねくれ!!!」
シーン――
「オワコンやんけ」
バチぼこ使えねぇと壁を蹴った俺は、藁に再びダイブして気づいた。
使えない条件の一つ目――
「自分の身に危険が及んでない時……まさか! 俺の今の状況じゃ使えないのか? 馬鹿野郎! 十分危険な状態だわ!」
パン一欠片の晩御飯に、もはや冷たい石床が寝床で、空気も悪い腐った牢屋で過ごしてる今の状況が危険な状態じゃないだと!?バカにするのもいい加減にしろっ!
判定のガバガバさに嫌気がさした俺は、もう辞めだ辞めだ! と不貞腐れながら再び目を閉じる。
この時俺は、元の世界でいつもカップラーメンを食べ、掃除もまともにしていない部屋で、煎餅布団にお世話になりながら寝ていたことを忘れていた――
つまるところあれだ、俺の頭は危険を感じていても、体はもう慣れていて全く危険を感じてないって訳よ……。
自業自得でした!!!
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