第2話異世界生活は突然に


「本当に異世界なんだな……」


 目の前に広がる街並みに、俺は口をぽかんと開けたまま目を丸くする。

 耳のとがったエルフ、獣の耳を持った獣人、俺の背の半分ほどの身長の小人族……。その他にも俺が見たことの無い種族が沢山いた。

 石畳にレンガ調の建物、俺が知っているアスファルトなんて一切無い。


 そこは言葉通りの異世界だった――

 

 馬車が普通に通る道路に、剣を装備した冒険者。それはもうどこからどう見てもラノベやアニメの世界。

 俺は未だに空いたままだった口を無理やり閉め、周りに溶け込まない自分に違和感を持ちながら足を動かす。


「うーん。俺地球で何してこうなったんだっけなぁ……」


 唸りながら顎に手を当て、どうしてこうなったかと考える。

 少しずつ紐解き思い返されるのは、さっきまで行っていた夜のレジバイトが脳裏に浮かび――


~~~~~~~~~~~~~~、


――午前二時


「いらっしゃはたひたはまはたら」


 もうそれは睡魔と日頃の滑舌の悪さがかけ算した時だった。

 店の中に客が来たと思ったら客じゃないし、もう幻覚まで見ていた。

 毎日毎日バイト漬けの生活にいよいよ神が終止符を打ちに来たのだろう。最初はそう思った。


 現実はそんなに単純じゃない――


 足元に広がる魔法陣を見て、俺は真っ先に自分が薬物でもしていたのかと疑ったよ。


「あ……俺……薬やってたっけ? もう現実わかんねーわ」


 意識朦朧とする中、光り続ける足元は徐々に俺の体を支配する。

 

『主の召喚詠唱により今から異世界へ転移させます――』

「はい?」


 機械の様な声が響き、俺は思わず素で返事をしてしまう。


 マジでこれが夢なのか現実なのかなんて分からなかった……。


 それでもただひとつ分かったのは、

 


 自分で思ってるより、体って疲れてるもんなんだなぁって思ったよ――



~~~~~~~~~~~~~~~~


「んで、拷問場に転移して? なんやかんやでここに来たってか? うん、謎!」


 マジでわからん! と、独り言をつらつら並べる俺を見るなり、近くの親子が離れていく。

 それに伴い周りの人間もそろそろと離れているような……。


「なんだよ! 俺がなんかしたってか!?……って言っても、俺に構ってくれるやつなんていないよな! はいはい、そーでしたそーでしたっと!」


 今まで友達すらまともに作らなかった俺が、今更コミュニケーション能力爆発なんてないのよ……。

 マジでろくな過去がねぇ……と、舌打ちをした俺は、商店街が並ぶ大通りを歩く。

 食べ物は地球のものと似ていて、リンゴやブドウの様なフルーツに野菜、その他にも乳製品のようなものや、何の肉かは分からないが立派な肉屋さんもあった。

 なかなか生活しやすそうだなと、俺はそれらをチラチラ見ながら行く先もなくただただ歩く。


「とりあえず地図でも見て地形の確認して……後は寝る場所確保しねぇとな……さすがに野垂れ死ぬ訳には行かねぇ、どうにかしてでも地球に帰って、世界一可愛い彼女作ってやるんだからな!」


 もはや生きがいがまだ見ぬ彼女と言う訳で少し虚しさを感じるが、俺はうぉぉぉぉぉ!! と気合を入れ、パチンと頬を両手で叩く。

 よし! とりあえず地図がある場所、よく分からんが一番デカい建物に行くか!!

 そうリスタートの一歩を踏み出した時だった――


「君、逮捕ね」

「はい?」


 いきなり勲章付きの帽子を被った男四人に囲まれた俺は、何言ってんだよとヘラヘラする。


「裸で街を出歩いてる身でよくそんなヘラヘラしていられるな……変態め」

「……!?」


 キリッとした目つきの男はそう言うと、俺の手首に手錠をかける。

 

 裸?


 最初何を言っているんだと思ったが、下を向いたら言葉通りに裸だった。

 うん。拷問場でいつの間にか裸にされてたよ! てへっ!


 何となく皆が避けている理由に納得した俺は、裸のまま手錠を引かれる。


 まぁまぁ、ポジティブに考えたらさ? 異世界に来ても異世界人の言葉が分かるってことじゃん? すげぇいい事だよな! ははは!


 こうして俺の異世界生活一日目は、拷問場でトラウマを植え付けられた後、全裸で大通りを優雅に歩いた罪で牢屋へ送られた――



 死のっかな。


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る