サンタさん 対 Amaz●n.com
安納にむ
サンタさん 対 Amaz●n.com
今日は、みなさんが大好きなサンタさんのお話をしましょう。
みなさんがもしかしたら知らないかもしれない、サンタさんのお話です。
北国にあるサンタさんのお家には、世界中の子どもたちからたくさんのお手紙が届きます。とても読みきれないぐらいのお手紙なのですが、サンタさんはあったかい暖炉のそばに腰かけて一通一通ちゃんと読んでくれるのです。
お手紙のほとんどはクリスマス・プレゼントのお願いでしたが、なかにはこんな変わったお手紙もありました。クリスマスが近づいた、十二月のある夜のことです。
そのお手紙は、茶色いダンボールの箱に入っていました。箱はチョコレートの箱よりも大きくて、横にはアルファベットの下ににっこり笑ったお口のような絵が描いてあります。
「はてな。どこかで見たことがあるマークじゃ」
と、サンタさんは首を傾げました。
箱を開けてみると、なかにはお手紙が入っていました。
お手紙は、アメリカに住む男の子からでした。
『だいすきなサンタさんへ
こんにちは。
ぼくのなまえはジェフといいます。
アメリカのシアトルにすんでます。
ぼくはサンタさんにおねがいがあって、おてがみをかきました。
それはサンタさんが、サンタさんをやめることです。
ぼくは、サンタさんのことがしんぱいでしょうがないんです。
だって、サンタさんはおじいちゃんです。
せかいじゅうにプレゼントをとどけなきゃいけないから、ものすごくたいへんだとおもいます。おじいちゃんでものわすれがはげしいから、きっとうっかりしてプレゼントをとどけるこをまちがえちゃうとおもいます。
でもだいじょうぶです。
アメリカにはサンタさんのかわりになる、すごいかいしゃがあるんです。
そのかいしゃには、プレゼントとかしょうひんをいっぱいおいておける、おっきなそうこ(フルフィルメントセンター)があります。
しょうひんはぜんぶIoTでかんりしてるからだれになにをおくるのか、すぐにわかるんです。ほしいしょうひんもちゅうもんりれきとかからおすすめしてくれる(レコメンデーション)きのうがあるんで、サンタさんにいちいちプレゼントのおてがみをかかなくてもいいんです。
サンタさんのぶかのトナカイさんも、たくさんのプレゼントをはこばなきゃいけないからたいへんだとおもいます。
まほうのそらとぶソリでせかいじゅうをあっちこっちいどうするから、シーシェパードとかが、どうぶつぎゃくたいだっておこっちゃうとおもいます。
でも、すごいかいしゃはそんなことはしないです。
そのかいしゃには、せんようのゆそうきボーイング767-300があります。FedExとかDHLとかにたよらなくても、じしゃでしょうひんをせかいじゅうにはこべるんです。
プラ○ムかいいんなら、イブにちゅうもんしてもクリスマスのあさにはプレゼントがとどくし、プラ○ムエアならちゅうもんしてたった30ぷんでドローンたくはいびんがとどけてくれるんです。
サンタさんって、ようはこどもにプレゼントをくばるだけの(それもよいこげんていの)デリバリーぎょうしゃにすぎないです。
でも、すごいかいしゃはちがいます。
すごいかいしゃは、おもちゃとかゲームとかアパレルとか、いろんなかいしゃをばいしゅうしてじしゃでしょうひんをつくるようになったんです。
じつはサンタさんがとどけるプレゼントだって、すごいかいしゃがつくってるんです。
じしゃでしょうひんをつくって、はんばいして、おまけにはいそうもしてるなんて、ぶっちゃけすごいかいしゃはさいきょうです。
サンタさんとか、もうめじゃないです。
うかうかしてると、サンタさんのかいしゃもすごいかいしゃにばいしゅうされちゃいますよ?
なのでサンタさんは、サンタをいんたいすればいいとおもいます。
サンタさんはおじいちゃんでさきがながくないし、いまどきトナカイさんのひくソリでプレゼントをとどけるなんて、じだいさくごもはなはだしいです。
いまどきのこどもは、みんなすごいかいしゃでほしいものをかってます。
サンタさんのじゅようはなくなって、かぶしきじかそうがくはさがって、おそかれはやかれはさんするとおもいます。
だから、いまのうちにサンタさんをやめるのがとくさくです。しがないねんきんぐらしはイヤかもしれないけど、しぬまぎわにろとうにまようよりはけんめいだとおもいます。
サンタでくえるのもいまだけです。
どうか、よろしくおねがいします。
アメリカがっしゅうこくワシントンしゅうシアトルしテリーアベニューノース41○
かぶしきがいしゃamaz○n.comさいこうけいえいせきにんしゃ けん しゃちょう
ジェフ・○ゾス』
なんと、ふざけたお手紙なのでしょう。
大の大人が子どものふりをして書いたいたずらだったのです。サンタさんは時代遅れで、amaz○n.comに買収されてしまうだろうから、今のうちに引退しろと脅しているのです。
これを読んだサンタさんは怒ったのなんの。
「なんじゃ、これは?!」
窓が割れてしまいそうなぐらいの大きな声で叫ぶと、お手紙をびりびりに破いて暖炉に放り投げてしまいました。それだけではありません。
揺り椅子を蹴っ飛ばして倒したので、大理石の床に傷がついてしまいました。ロマネコンティのボトルを壁に投げて割ってしまったので、数十万ドルもするワインは台無し。カッシーナのガラステーブルを力任せにひっくり返してしまうので、お部屋のなかは泥棒が荒らしたみたい。足の踏み場もないほどめちゃくちゃです。
牛舎でトナカイさんにエサをあげていた、お手伝いの妖精トントゥが騒ぎを聞きつけてやってきました。
背丈は人間の子どもぐらいですが、顔はおじいさんのようにしわだらけ。小さな体にボロきれのような布を幾重にもまとった姿は、妖精というよりは小さな乞食です。
トントゥはしわだらけの顔をもっとしわしわして、
「落ち着いてくださいっ」
となだめますが、小さなトントゥから見たサンタさんはヒグマのように大きいのです。昔話に出てくるエルフのようにとんがった耳をばたばたさせながら、あたふたするしかありません。
「サンタで食えるのは今だけじゃと?!」
サンタさんは、頭に被った赤いナイトキャップよりも顔を真っ赤っかにさせて怒鳴りました。お外は息も凍るほど寒いというのに、サンタさんのお鼻の上に乗っかった老眼鏡はカンカンになったサンタさんの体温で曇っています。
サンタさんがこんなにも怒るのには、ワケがあるんです。
「バカを言え! わしはクリスマスだけで貴様ら中流階級が目にしたこともないような大金を稼いでおるんじゃ! 世界中のガキどもに百ドルずつくれてやっても、痛くもかゆくもないような額をな!!」
そうなんです。サンタさんは、ただバカにされて怒っていたのではありません。
サンタさんは、こう見えても大富豪のビジネスマン。
子どもたちにプレゼントを配るだけのボランティアじゃあありません。
株式会社サンタクロースという会社も持っていて、その筆頭株主でCEOで社長なんです。
会社ではクリスマス・プレゼントにメーカーをタイアップした広告事業から、サンタさんの映画やイベント出演、サンタさんをグッズ化したライセンス事業に、さらにはサンタクロース村などのテーマパーク事業などを手掛けていて、前期の売上高はあのウォルト・デ○ズニーに次ぐほどの規模。サンタさんの保有資産だって、公表されていないだけで本当はフォーブスの世界長者番付トップ100に毎年ランクインしているんです――。
と言っても、良い子のみなさんにはチンプンカンプンですよね。
すごくわかりやすく言えば、サンタさんはお金をどんなに使っても暮らしに困らないぐらいの、とんでもない大金持ちだってこと。みなさんのお父さんやお母さんの年収なんて、サンタさんにしてみればお小遣いにも足りないぐらいのはした金なんです。
それを支えているのが、世界中の子どもたち――つまり、みなさんです。
世界では毎年一億人ぐらいの赤ちゃんが生まれていて、そのほとんどがサンタさんのことを好きになってくれますから、サンタさんの人気、いえ需要がなくなることはありません。お父さんやお母さんはかわいい我が子のためならお金を惜しみませんから、サンタさんの商売が立ち行かなくなるとか、ましてやamaz○nに買収されちゃうなんてことは、絶対にあり得ないんです。
サンタさんには、実業家としての強いプライドがあります。たった一代で、株式会社サンタクロースを巨大企業に成長させた自負があるんです。
そんなサンタさんに需要がなくなるだの、株式時価総額が下がるだの、先が長くないから年金で暮らせばいいだのとさんざんコケにすれば、雌をとられたおサルさんのように手がつけられないほど怒るのも当たり前なんです。
「なにがプラ○ム会員じゃ! なにがすごい会社じゃ! いくら買収しおったところで、amaz○nなぞ所詮は他人が作った物を売るしか能のない、ちんけな小売業者じゃろうが! わしの会社を乗っ取るじゃと?! 居丈高にほざいておるがいい。このサンタクロースを敵に回すことがどれほどの大ごとか、目に物見せてくれるわ!!」
サンタさんはそう怒鳴り散らしますと、床に散らばったガラスの破片をじゃりじゃり踏みつけてお外へ飛び出していってしまいました。
「サンタさん、何をなさるおつもりです?!」
トントゥはサンタさんの足にしがみついて、なんとか行かせまいとします。
「離せ! amaz○nの○ゾスとかいうハゲに思い知らせてやるのじゃ!」
「いけません! そんなことをなさったら大変なことになります! どうかおやめくださいっ」
「やかましい! 離さんか、この!!」
と、サンタさんが力任せに足を蹴り上げましたので、あっけなくトントゥはサッカーボールのように吹っ飛ばされ、そのままぶ厚く積もった雪のなかにどぼん! 頭から落っこちたせいで気を失ってしまいました(妖精も人間と同じように気絶するんです)。
そのあいだに、サンタさんは魔法の空飛ぶソリに乗ってどこかへ飛んでいってしまったようです。トントゥが気がついたときには、トナカイさんたちもろとも、サンタさんの姿はもうどこにもありません。
そのまま二日二晩、サンタさんは帰ってきませんでした。
さて、サンタさんはいったい何をするつもりなんでしょう。
実はこれまでもサンタさんは、商売敵と聞けばいろんな妨害工作(いやがらせ)をしてきました。
たとえばトイザ○スに敵対的買収を仕掛けてみたり、お店に置くおもちゃをぜんぶサンタさんのグッズにするようウォルマ○トを脅迫したり、デ○ズニーランドのお城の壁に『くたばれチビねずみ』とイタズラ書きしたり……。
けれども、今回は商売敵のほうからいやがらせされたのです。サンタさんの半世紀以上のキャリアで初めてのことです。
これで少しはいやがらせされる人の気持ちがわかって反省するかと思いきや、サンタさんはそんな善人じゃありません。むしろ、思い知らせてやるのじゃ! なんて息巻いていたぐらいですから、なにをしでかしてもおかしくありません。
良い子のみなさんは、もうわかりますよね。
そうです。amaz○nの倉庫に火をつけたんです。
ジェフのお手紙に書いてあったとおり、amaz○nには商品を保管しておく倉庫が世界中にいくつもあります。
サンタさんは、そのすべてに灯油をまいて商品ごと燃やしてしまったんです。
奇跡的にも亡くなった人はいなかったようですが、商品がぜんぶ灰になってしまったのですからamaz○nにとってはたまったものではありません。売る物がなければお金をもらえない、ビジネスにならないからです。このままでは破産してしまうでしょう。サンタさんも悪知恵を働かせたものです。
「なんてことをしたんです!」
ショックのせいでしょうか、サンタさんに詰め寄るトントゥはげっそりと痩せて、まるでしなびた大根のようです。
無理もありません。トントゥはサンタさんが悪事を働いていた二日二晩、不安で夜も眠れずごはんものどを通らなかったのです。それで商売敵に放火したとなっては、生きた心地もしないに違いありません。
けれどもサンタさんは悪びれもせず、ホウホウホウと笑って、
「何を申すか。元はと言えば、奴らがふざけた手紙でケンカを吹っかけてきおったのが悪いのじゃろうが」
「そんな……。本当にamaz○nが送ってきたかもわからないのに……。誰か死んだらどうするんですか?!」
「やかましい! 倉庫には人っ子ひとりおらんかったわ! クソamaz○nめ。小生意気にAIだの全自動なんぞと気取りおって。フン。まあ良いわ。おかげで心置きなくロボットも商品も灰にできたからのぅ」
「……商品?」
と、トントゥは聞きました。
「商品って、amaz○nの商品ですか」
「当たり前じゃろ。他に何があるのじゃ」
「ぜ、全部燃やしたんですか?」
「ああ、燃やしてやったわ。アメリカもヨーロッパもアジアも、世界中のamaz○n商品在庫まるごとすべてな! 今ごろ奴ら、商売が成り立たんと泡食って泣いとるわ」
それを聞いたトントゥの顔は、みるみるうちに熟れたナスのように真っ青になってしまいました。
「なんてことを……」
と、頭を抱えてその場にへなへなと座り込んでしまうのです。
得意げに笑っていたサンタさんも、さすがにトントゥのただならぬ様子を不思議に思いました。
「なんじゃ? おまえ。どうしたというんじゃ」
「……あそこにあったのは、amaz○nの商品だけじゃないんです……」
「だけじゃないとはどういうことじゃ」
トントゥは、泣くのを堪えるように声を絞り出して言いました。
「あのなかには……、あのなかには、サンタさんが届けるクリスマス・プレゼントも含まれてるんですよ!」
「はあ?」
サンタさんは信じられないというように眉をひそめます。
「バカを申せ。わしのプレゼント用の商品は、いつもメーカーに取り置きして、」
「それは去年までの話ですよ! おもちゃやゲームを作っている会社はぜんぶamaz○nに買収されたか、何らかの提携関係にあるんです。今年からプレゼントは、すべてamaz○nから送ってもらう契約になってるんですよ!」
覚えてないんですか、とトントゥは、予習をしない生徒を叱る先生のように言いました。
そういえば、ジェフからのお手紙にも書いてありましたっけ。
amaz○nは『いろんなかいしゃをばいしゅうしてしょうひんをつくるようになった――じつはサンタさんがとどけるプレゼントもamaz○nがつくってるんですよ』って。
サンタさんがamaz○nとの契約を忘れてしまっていたのもしかたありません。だって売上高とか業績目標とか、サンタさんは数字にしか興味がありませんから。
ああ。なんということをしてしまったんでしょう。
サンタさんは、頭が真っ白になってしまいました。
サンタさんはあろうことか、自分が届けるプレゼントに自分で火をつけて燃やしてしまったんです。商売敵を貶めるつもりが、自分の首まで絞めてしまったんです。
プレゼントがなかったら、どうにもなりません。
今年のクリスマス、世界中の子どもたちはプレゼントなし、です。
子どもたちはもう……目も当てられないぐらい落ち込んでしまうでしょう。
「良い子にしていたのに、なんで……」と泣いてしまう子もいるに違いありません。「プレゼントをくれないなんてひどい!」とサンタさんを嫌いになってしまう子もいるはずです。
そうなったら、もう大変です。
子どもたちのお父さんやお母さんは、「サンタさんは子どもたちを悲しませた! ひどい人だ!」とサンタさんに怒りを爆発させ、そのうわさは瞬く間に世界中の会社や銀行の社長、経営陣、偉い人に伝わってしまうでしょう。
「サンタさんは顧客の期待を裏切り、事業をおろそかにしている」「経営者としてあるまじき姿勢だ」と悪い評判が立って、サンタさんの会社の信用度はがた落ちし銀行は融資を断り、取引先は契約を破棄、従業員はサンタさんを見限って離職し、事業は立ち行かなくなって資金繰りが悪化し、やがてサンタさんは破産してしまうことでしょう。
サンタさんの手元には日本の財政のように莫大な負債だけが残り、返済のために大きな豪邸も高級家具も贅沢な暮らしもすべて手放さなくてはならなくなるでしょう。
良い子のみなさんにわかりやすく言えば、サンタさんはもうお先真っ暗ってことです。
もうお金儲けだの、世界長者番付だの言っていられません。
ジェフのお手紙に書いてあったように、明日食べるごはんのお金にも事欠くような、ひもじい暮らしをするしかないのです。
そのうえ、サンタさんは放火という大罪も犯しています。それも世界中でです。
もし犯人がサンタさんとわかって警察に逮捕されるようなことになれば、路頭に迷うどころではありません。おそらく死ぬまで刑務所から出ることは叶わないでしょう(いっそ、そのほうが食うや食わずの暮らしをしないだけマシと言えるかもしれませんが……)。
お金儲けばっかりしてきたツケが、巡り巡っていまやってきたようです。
サンタさんは目の前が真っ暗になったような気持ちになりました。お部屋のなかは暑くも寒くもないのに、冷たい汗が次々に噴き出してくるのです。万事休すです。
「わしは……わしは、どうしたらいいんじゃ……」
どうしようもありません。
このときばかりは、怒りっぽいサンタさんも怒る気力がないようです。
大理石の床におでこをこすりつけるように突っ伏して、えんえん泣き出してしまいました。
トントゥが優しく何か声をかけますが、サンタさんにとってはどんな慰めの言葉も聞こえてはいません。七十を過ぎた大人が、注射を嫌がる子どものように見苦しくぐずっているのです。
そうしてさんざん泣いたあと、ふいにサンタさんは立ち上がって、
「こうしてはおれぬ……!」
どこでどんな考え方をしたのかわかりません。
とにかく、サンタさんは高飛びしようと考えました。
ここでさっさと魔法の空飛ぶソリに乗って、ロシアでも南米でも亡命すれば良かったのでしょうが、そこは意地汚いサンタさんのことです。お家にある金目の物をぜんぶ持って、それからスイスの貸金庫で……と、余計なことを考えているうちに、放火の疑いでインターポールの依頼を受けた警察がお家にやってきて、あっけなくサンタさんは捕まってしまいました。
ひとり残されたトントゥはと言えば……。
警察の取り調べを受けたあと、サンタさんの共犯ではないと解放されたトントゥは、すぐにソリに乗ってシアトルのamaz○nの本社へ向かいました。
そこで、社長の○ゾスさんに洗いざらいぜんぶ話したのです。
amaz○nの○ゾスを名乗る人からいやがらせのお手紙をもらったこと。それをサンタさんが本気にしてしまい、世界中にあるamaz○nの倉庫に火をつけてしまったこと。そのせいでamaz○nにとんでもない損害を与えてしまったこと。さらにクリスマス・プレゼントまで燃やしてしまい、その結果サンタクロースのブランドイメージは地に落ちるだろうということ。
そして、サンタさんが保有している資産や株式やマーチャンダイジングの権利をすべて無償で譲渡するから、ぜひそれを損害の補償に充ててほしいと提案しました。
最後にトントゥは、床に手をついて「サンタさんがしたことは許されないことです。謝って済むことではありませんが、謝らせてください」と土下座をしました(良い子のみなさんも土下座は知らなくても、きっと一度は見たことがあるでしょう。お父さんがお母さんに謝るときにしているアレです)。
それからトントゥは紫色の唇を噛みしめて、
「ただただ悔しいのは、サンタさんのせいで子どもたちが傷つくことです。子どもたちのサンタクロースという夢だけは壊したくありませんでした。それだけが残念でなりません……」
と言って、細い肩を震わせて泣いてしまいました。
そのあと、amaz○nの○ゾスさんたちがどんな話し合いをしたのかはわかりません。
とにもかくにも、トントゥの提案をamaz○nはぜんぶ受け入れることにしました。
そして驚くべきことがふたつありました。
まずひとつは、クリスマス・プレゼントです。
サンタさんに燃やされてしまったプレゼントでしたが、なんとamaz○nはおもちゃやゲームやアパレルを作る工場をフル稼働させて、クリスマス・イブ前日までにすべて在庫を取りそろえたのです。
どんな考えがamaz○nにあったのかはわかりません。子どもたちのことを不憫に思ったのかもしれません。
なんにせよその年のクリスマス、子どもたちがプレゼントなしになることはありませんでした。
でもサンタクロースが届けないのでは、クリスマス・プレゼントとは言えないのでは……?
そう思う人もいるでしょう。
いえいえ、安心してください。その年もちゃんとサンタさんがプレゼントを届けたんです。
これが驚くべきことのふたつめ。
amaz○nは、放火したサンタさんを罪に問うことはしなかったんです。
amaz○nがどんな手を使ったのかわかりません。警察か司法か、いずれかに働きかけて容疑を取り下げ、逮捕された事実も犯罪もすべてもみ消したのです。
ですからサンタさんが警察に捕まったことは、今では誰も知りません。倉庫放火事件も未解決で、犯人は捕まっていないことになっているんです。
その代わりサンタさんは、赤服と魔法の空飛ぶソリ以外のすべてを失いました。
財産は没収、株式は売却。株式会社サンタクロースは買収されてamaz○nの完全子会社になり、マーチャンダイジングの権利、テーマパークなどすべての資産はamaz○nのものになりました。
そしてサンタさん自身もamaz○nのコンテンツのひとつになって、みなさんもよく注文しているとおり、amaz○nのサイトでクリックするだけでサンタさんを派遣してもらえるようになった、とこういうわけなのです。
こうしてみなさんがよく知っているサンタクロース、通称SANTamaz○n(サンタアマ○ン)は誕生したんです。
それにしても、都合の良い話ですよね。
最初のいやがらせのお手紙から始まって、まるでamaz○nがサンタさんの利権を手に入れたいがために、短気なサンタさんをそそのかして罠にはめたようにも見えませんか。
けれどもサンタさんはあの事件以来、すっかりamaz○nに飼い慣らされてしまったようで、あのお手紙が本当に○ゾスから送られた物だったのかとか、自分を陥れた証拠を探そうなんて気は露ほどもありませんでした。
それよりも今は、一年365日24時間仕事に忙殺されて、考えるヒマも気力もないようです。
それにまさか、amaz○nほどの大企業がいくらサンタさんを欲しがったとは言え、あんな幼稚な手を使うなんて絶対に思いつきもしないでしょうしね。
みなさんが大好きなサンタさんのお話でした。
サンタさん 対 Amaz●n.com 安納にむ @charley-d
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