第6話 秀頼の逆転勝利 始末 その六

 いろいろ用事が有って書いている時間が無いので、暫くの間投稿の間隔が開きます。


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 ある日おれは面白い企画を考えた。


「幸村」

「はい」

「百姓達やその女房どもを大勢呼べ。それから子供らもだ」

「…………」


 おれは幸村に野外で会食会を開こうと提案した。ジャガイモの試食会だ。広場に大なべを用意させて、女房どもにジャガイモを洗い調理をさせる。


「この芽の所は取れよ。ここは毒だからな」


 さらに大きめのジャガイモは四つ切にする。小さいものは丸洗いして水気を切っておく。皮は剥いても剥かなくてもどちらでもいい。ジャガイモの水分を布巾で拭くなどしてから、十分熱した食用油の中に入れ揚げる。表面がきつね色になり、竹串などをさして、中まで火が通ったら、取り出して油を切り、塩コショウをふりよく混ぜ、パセリのみじん切りを振りかける。これで出来上がりだ。

 パセリは化成肥料と共に苗を購入して、試しに植えさせたもので、難しい作物ではないようで良く育っていた。ビタミンが豊富だから、これからも増やすようにした。コショウも輸入するようにしよう。

 また戦国時代、日本に入ってきた当初のジャガイモの味はとても淡泊で、日本人の嗜好に合わなかった為に普及しなかったようだ。品種が改良されて日本人の口に合うようになるまでには、さらに百年ほどの年月が必要だったらしい。


「このジャガイモはお前たちの知っているのとは違うぞ、まあ試しに食ってみろ」


 おれは品種改良された現代のジャガイモを百姓らに食べさせてみて、その反応を見た。


「こりゃ旨い!」


 女も子供も皆かぶりついて食い始めた。

 もちろんその後現代に行き、量販店を回り種芋を買い占めて、百姓達に渡したのは言うまでもない。品種は男爵とメークインだ。ジャガイモはどんなにやせた土地でも出来る。飢饉対策としてこれほど有効なものはないだろう。それに今の小氷河期と言われる時代の寒い気候にも合うだろう。何しろ北海道で盛んに栽培されているジャガイモだからな。

 収入を米だけに頼った藩などの体制はいずれ崩壊する。作物の種類を増やすなどして、経済活動の多様化を促進するのだ。


 次は通貨だ。領国貨幣は戦国時代から各地の大名が領内用として鋳造したもので金貨や銀貨だった。

 豊臣家もその通貨を新しくしようとしたのだが、おれは紙幣を思案に入れていた。紙幣なら金や銀を直接使う訳では無いから比較的安価で出来る。度々デザインを変えて、古い紙幣と交換する仕組みを考えるか、それとも期限を区切るなどの方法を考えるかだ。贋金を防ぐ意味でな。

 それに通貨は金貨や銀貨に混じってさらに新たな紙幣と、様々発行されたら必ず混乱が起きるに違いない。下手をすると金融不安から暴動も起きかねないのだ。

 兌換準備(だかんじゅんび)は。発券した藩や大名が兌換に備えて保有する正貨を準備することだ。金銀地金などと交換出来なければ信用を失い、それは贋金ともなる。豊臣家の保有する黄金の力が有れば紙幣を発行しても信用は得られるだろう。但し、何処かで偽紙幣が大量に作られれば混乱する。ここは慎重に検討する必要がある。

 そこで、最も簡単な方法を思いついた。おれが紙幣を印刷してしまえばいいではないかと。

 現代の技術で紙幣を印刷すれば、戦国時代末期の日本では誰も偽造出来ない紙幣となるだろう。だから明治初期の紙幣をまねたデザインを和紙に描き、肖像画には後水尾天皇をと考えた。だが朝廷に話を持ち込むと丁重に断られた。多分それが何を意味するのか、訳が分からなかったというのが真相だろう。

 結局文字と数字と後は何となくそれらしい模様にした。もちろん文字などは家臣から達筆な者を選び書かせた。金貨や銀貨などそれぞれに相当するものを数種類だ。


「トキ」

「なあに」

「現代だ、頼む」

「面白い事になりそうね。いいわよ」


 おれは紙幣の見本を、とある印刷所に持ち込んだ。


「これと同じものを印刷してもらえますか?」

「何か古い紙幣みたいなデザインですねえ」

「そうです。ちょっとある催しもので使いたいんです」


 ところがその後おれの注文した枚数がとんでもない量だったので、担当者は唖然としていた。その印刷所には飛び込みで入ったから、信用してもらう為に最初は少しだけ印刷して、その後徐々に枚数を増やしていった。

 透かしなどの精巧な作りは何もしていない。ただの印刷物だ。それでも紙は現代の物であるし、一六〇〇年代の者にこの紙幣は絶対偽造出来ないだろう。

 後はいかにこの紙幣を流通させるかだ。今流通している硬貨はそのまま使うが、新たには紙幣以外造らない。


「幸村」

「はっ」

「これから家臣達の家禄は皆、米と紙幣を半分づつ支給する事にするぞ」

「…………」

「それから商人達を呼べ」


 おれはやって来た商人達に紙幣を示して、要求されれば必ず金と交換するからと説明をし、協力を仰いだ。さらに朝廷にも一定量の紙幣を差し出して、お使い下さいと説明した。

 次は農民だった。


「豊富に出来た米や作物は自由に商人に売っていい。お前たちの収入だ。ただし売り上げ金の二割は税金として豊臣家に紙幣で支払う事とする」

「…………」

「化成肥料も豊臣家から買ってもらう事にする」


 売上の二割は農民が喜ぶだろう。半分で良いと言っていた年貢が、さらに二割になるではないか。

 このようにして農民からも紙幣を受け取るようにした。これで紙幣の領内流通を促すのだ。何しろ日本の総人口に占める農民の割合は八割を超えていたらしいからな。

 これはどこかの国で、村や町やテーマパークが突然国からの独立を宣言、その中だけで使用できる通貨を印刷したようなものだ。観光客に使ってもらう。信用してもらえさえすれば、通貨として流通するのだ。もちろん豊臣家の発行した紙幣は、いずれ日本中で通用するようになる。

 さらに各地の城に駐留する軍の兵士にも注目した。戦が無い時など暇を持て余している兵士達が相当数になる。この者達を遊ばせておく手はない。


「幸村」

「はい」

「豊臣軍の事だがな」

「…………」

「一定数の者を選抜して輸送隊を組織せよ」


 前にも言ってあったが、輸送を専門にする組織を本格的に創る。商人から請負、物資を安全に運ぶ事で輸送の料金を紙幣で得るのだ。もちろんそれは豊臣家の収入となる。豊臣軍の人数を考えれば、大規模な輸送組織が出来上がるだろう。


「それからな、今大阪城で備蓄している米はどの位だ?」

「……すぐ調べてご報告致します」

「いや良い。備蓄米は常に二〇万石とせよ」

「分かりました」


 それで十分なのかどうか分からないが、とりあえずの目標値だ。

 貞享二年(一六八五年)江戸幕府では直轄の城や譜代諸藩の城に、全国で四十四万石ほど備蓄していたという資料も見受けられます。

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