サイ・ゴースト――プロローグ――

もりくぼの小隊

EP.00――呼応――


 黒い雨が少年の顔を濡らす。

 それが「雨」ではない事を少年は気付けない。

 視界の悪い眼に絡みつく煩わしい雨を拭おうと右手で顔を触ろうとするがなぜだか顔は拭えない。

 少年は自身の「両手」「両足」が既に無いという事実に気付けない。

 虚ろな黒い眼にとらえるのは、自分の全てを終わらせようとしていた悪漢だった黒い骸。ソレを目の前で喰らっている途轍もなく巨大な存在が、肥大した口から耳障る咀嚼音を繰り返しながら目玉の無い顔を少年に向けて近付いてくる。

 そんな異形の光景を目の前にしても恐怖の感情もましてや思考するという力も湧いてはこない。視界が黒く沈む感覚にただ、身を任せてゆく。大きな鋸のようなバカみたいに白い幾重にも連なる歯がゆったりと時間を溶かしながら近付いてくる。少年の生が徐々に終わると告げてくる。


 声が聞こえた気がした。それがなぜ声と感じるのかもわからない。声とも呼べぬ声が頭に響き続けていると失いつつある感覚が教えてくれた。頭に一瞬だけ過ぎった大切な笑顔と別れたくないと少年は願い、声とも呼べぬ声の呼応した。


 少年の心がとある言葉を紡ぐ。



 ―――コンセプト―――



 少年の生命が白く輝いた。

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