第4話 三男のプラム
「父上、入ります」
物静かに扉が開かれる。三男は上二人に比べて大人しい男だ。剣の才能も馬の才能も秀でたものは無いが兄たちに習い騎士団を一つ率いてはそれなりの戦果は挙げている。
「ああ、遠慮せず近くに」
「話は兄たち二人から何となく聞いております。何やら葬儀の話だとか?」
「ん、ああ、もしもの話だがな。お前は──」
「葬儀はやりません」
「何?」
「王を失うのです、そんなことを大々的に声高らかに喧伝する必要などありません」
「ほう」
ベノサが目を開き三男を見ると、三男は僅かに微笑み浮かべていた。
「我が国は王を失ってもその功績によりいつまでも磐石であると、支配国である国々に示さなければなりません。ならば葬儀など執り行わず、それを理由にまだ支配下に無い地域に攻めいるまでです」
「それを理由に?」
「ええ、例えば、王は毒殺されたなど、無い理由でも付けて弔い合戦だと攻めるとかですかね」
「なるほどな。お前は休戦協定を結んだ同盟国を攻めようというわけか」
「ええ、今や我が国は反逆を恐れぬ強国です。いつまでも同盟などと対等の立場の国があることがおかしい。父上が築き上げたラパナの栄光の先は大陸全土の支配にこそあります。例え父上がこの先亡くなることがあろうともその大義は止まることはありません」
三男の瞳に薄暗い焔が灯るのをベノサは感じ取った。
嗚呼、なるほど。兄二人の影に隠れ見事に育ったものだ。これならば託すことが出来る、これならば去ることが出来る。
「なるほど、プラム、お前という男を甘く見ておった。嬉しく思うぞ。我亡き後は兄二人を従えてお前がこの国を導いていけ」
「はっ、有り難きお言葉。ですが──」
「なんだ、言うてみろ」
「ですが、我が王を失うなどとても考えられません。このような話が出た以上認めるしかありませんが、父上はご病気で?」
「最早隠すのが馬鹿らしいか。その通りだ、昨年から患い悪化してきている。法術師に見せたがこのままでは先は短いと」
神の加護を受け人体の治癒能力を促進させる法術。その使い手が首を横に振った。促進させようものなら更なる悪化にしかならないのだと説明を受けた。
「法術以外の治療は試みたのですか?」
「幾つかのことはな。風に聞く秘術なるものがあるがそれは玉座を離れねば探すのも難しかろう」
「ならば、玉座を離れていただきたく思います」
「玉座を離れるのは死する時のみ、延命のためになど考える必要もない」
「いえ、我が国の栄光の為には父上には生きてもらわなければならないのです。何も玉座を離れ王としての力も手離せと言ってるのではありません。王を失うわけにはいかないのです。先ほどご提案させて頂いたこと、利用しませんか?」
三男の瞳の焔が揺れ動いた。
「偽装するのです、死を。そうして表立ちは死んだようにみせかけ、父上は治療に専念してください。王の責務から一度離れ御自愛頂き、また病が治れば世に甦ればいいのです」
「その間に同盟国を支配国に置き換える、そう申すか?」
ベノサの瞳にも焔が灯る、そのような感覚を覚えた。いや、思い出した。死を思い失われた焔、大陸全土を焼きつくさんと燃え続けていた焔。それが再び灯った。
「誇り高きラパナは王の国。その栄光に尽くすのが我らの役目。ただ王を奉るだけが能ではありません」
「相分かった、お前の案に乗ろう、我が息子よ。お前の弔いで、我は王として生き続けようぞ!」
ベノサは三男の肩を握りしめた。見事な成長だと感慨深いものがあった。病を克服し王として天寿を全うする、それが成長した息子に応える方法であり、自らが望んだ栄光なのだ。
「では、父上、まずは皆の前で毒を飲んで死んでもらいます」
「え?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます