第3話 次男のバンブー

「父上、何か御用でございましょうか?」


 王室に呼び出された長男が何やら首をかしげながらぶつぶつと呟いていたのを見て、次男は訝しげに思いながら扉を開けた。


「ああ、よく来た。遠慮することは無い、もっと近くに」


「は、はぁ・・・・・・」


「手短にいこう。あー、もし、もしの話なのだが、私がこの先死ぬような事があれば、お前はどのように弔ってくれる?」


「は、はい?」


「驚かせてすまない、だが答えて欲しいのだ。お前はどのように弔ってくれるのか?」


 長男を悩ませたのはこれか、と次男は直感した。ならば、何も答えれなかったのか、それとも答えに納得してもらえなかったのか。兄は金にものを言わせる男だ、豪華なだけで中身の無い案でも出したのだろう。ならば──


「偉大なる王の弔いとなれば、ただ当たり前の葬式を豪華にやるってのでは話になりません。特別にして唯一の葬式をしてこそ、偉大なる王はここにありと世に広めれるわけです」


「あ? ああ、んー・・・・・・続けて」


「まず陰気なのは良くない、俺は嫌いです。我らが騎馬隊の出陣のように輝かしくいきたいもんです。そんなわけで、黄金の甲冑に身を包んだ騎馬隊が囲みながら棺が運ばれます。きらびやかな葬列の後ろに聖歌隊が続きます。少年聖歌隊。子供たちが王を讃える歌を歌うわけです、らららー、と。そうして人々は目を離すことのできない、目を離しても耳に入ってくる葬列となるわけです」


 身振り手振りで考える派手さを表す次男。ベノサは眉間を抑えていた。


「んで、ここからし物がありまして──」


「演し物?」


「ええ、ええ。ただ、そこらの大道芸人を呼ぶ訳じゃないんです。父上はご存知ですかね、街の芸術家の中で彫刻が得意なものがいましてね。それに頼みまして、父上を彫ってもらいます。いやいや、単に石に彫ってもらうわけじゃありません。石像担いだところで古い古い。ドラゴンです、ドラゴンの頭を父上の顔のように彫ってもらおうって話なんです。やはり父上の威光こそが我が国の威光です。その偉大さ、恐ろしさ、ドラゴンの頭が、いや父上の顔を持ち上げまして、ガオーガオー、と見せつけるわけです」


「それは・・・・・・威厳はあるのか?」


「ええ、ええ、もちろんありますとも。なにせドラゴンです、いや、あのファイヤードラゴンです。遥か北の山に生息すると聞きました、その時には俺がこの命にかけて討伐してきましょう。そしたら、ガオーガオー、ですよ父上」


 実は実物を見たことが無いので自身の物真似があってるのかどうか自信が無いまま次男は身振り手振りを続ける。


「ああ、そうだ、歌だけじゃ物足りないでしょう。楽器隊も必要だ、太鼓に笛、鳴り物は多い方がいいでしょう。見た目も派手、音も派手。ドンドンパフパフピーヒャララ、そうやって大陸を一周していく。各地で名産の楽器が加わっていくのはどうです? チャンチャンステテテンシャカシャカテーン。我が国に帰ってくる頃にはそれはそれは賑やかな祭りとなるでしょう。ドンチャドンチャパラパッパガオーガオーって。これは間違いない。でしょう、父上」


「ん、ああ、そうだな・・・・・・わかった、下がれ」


 ベノサは大きくため息をついて、次男を退出させた。

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