第2話 長男のパイン

「父上、何か御用でございましょうか?」


 玉座がある謁見の間ではなく王室に呼び出されたことを長男は訝しげに思いながら、装飾豪華な扉を開き入ってきた。


「ああ、よく来た。遠慮することは無い、もっと近くに」


「は、はぁ・・・・・・」


 誰に聞かれることもなく内密な話となるとただでさえ不穏であるのだが、いつも威圧と冷酷さに近寄りがたいベノサが手招きするのに長男は度肝を抜かれた。


「それで話・・・・・・とは?」


 不安に堪らず自分から話を促してしまって、しまった、と長男は思った。不敬であると腕を斬られてもおかしくない、そういう男を前にしていることを失念していた。


「あー、もし、もしの話なのだが、私がこの先死ぬような事があれば、お前はどのように弔ってくれる?」


「は、はい?」


「驚かせてすまない、だが答えて欲しいのだ。お前はどのように弔ってくれるのか?」


「何ですか父上、そんな縁起でもないことを聞かなくても・・・・・・」


「いいのだ、息子よ。私が気にしていないのだ、お前が気にすることはない。で、どのように──」


 気にしていないと口にするわりにベノサの表情は暗く、憔悴してるように見えなくもなかった。もし、と先の話のように頭につけられても長男には直近の事実を告げられてるように思えてならない。


「で、でしたら、悲しみ暮れるのではなく天寿を全うしたと祝う意味で、盛大な弔いを挙げさせて頂きたいと思います」


「盛大な弔い?」


 ベノサの眼光が一瞬鋭くなり長男は息を飲む。


「なるほど、してどのような弔いだ?」


「我が国の教会では少し手狭なところがございますので、先月領地と化した例の教会本国にて執り行おうと思います」


 遊牧民を祖にするラパナの宗教とは異教だった為に大聖堂以外を燃やし尽くしたのが記憶に新しい。威光を示すのに再利用出来るかと残しておいた大聖堂を使用するのだろう。


「振る舞う料理なども慎ましく食べるものではなく、各地の一流の食材を揃えることにしましょう。この偉大なる王の葬式でしか食べれないというものを揃えましょう。そうすることで、我が国の栄光を誇示できます。北の海鮮や西の果物などが良いでしょう。いやいやそれだけでは足りませんね、希少な物も取り揃えないといけませんね。ベヘモスの肉やグリフォンの肉、ああ、サラマンダーの皮も旨いと聞きます、揃えましょう」


 長男は矢継ぎ早に言葉を並べていく。


「もてなすなどと甘い考えではございません。先ほども言いましたが栄光の誇示でございます。ですので、支配下にある一品、大聖堂から料理などで示した後、土産として──」


「土産?」


「ええ、土産として我が国の馬を振る舞おうと思います。我が国の馬は良馬ばかり。しかし、良馬あれどそれを乗りこなす技術がなければ今の栄光は掴めない、そう示すわけです」


「栄光を示す、か」


「そうですそうです。ああ、あと、これは今まで考えたことも無かったのですが、棺についてです。偉大なる王の棺となるとそれはまた特別にあつらえる必要があります。各地にある、大樹だ聖樹だと呼ばれるものを斬って作るのが良いでしょう。各地の信仰が集まった棺、ああ、偉大なる王に相応しいでしょう」


 少し興奮じみた長男にベノサは眉をひそめたが、長男は気づきもしなかった。


「・・・・・・なるほど。して、その盛大な葬式は何人ほど呼ぶ気なのだ?」


「それは支配下にある土地からありったけの数を呼ぶわけですから、万は下らないでしょう。いや、呼ばなくても来るでしょうが」


「・・・・・・わかった、もういい、下がれ」


 ベノサは小さくため息をついて、長男を退出させた。




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