第5話 モヒカン商人X

 今日も今日とて、デストロイラビットを狩ってきた父さん。国を滅ぼせるウサギを傷ひとつ無く狩ってくる父さんは、一体何者(狼)なんだろうか。

 そんな父さんの後ろには、何故だか人がいる。国が滅ぶ森に、一体なぜいるのだろう…。


 『この人は、狩りの途中で見つけた商人さんだよ』

 「はい、私はこの近くの国で商人をやっている者でございます。デストロイラビットに襲われる寸前の所を、キュリフィンドル殿に助けていただいたのですよ」


 イカついな。モヒカンの商人なんて、オレ見たことないよ?全身ムッキムッキで、頬に傷が—————全身マッチョでモヒカン頭?ってアレ?この人、この前湖で見た変質者じゃない?

 …父さんは気づいてないし、黙っとこ。


 『私は、キュリフィンドルの妻でフリザリンです』

 「お見知り置きを、フリザリン殿」


 母さんが挨拶したので、それに続く。


 『オレはキュリフィンドルとフリザリンの息子で、キャルロジックです』

 「—————」


 モヒカン商人X(今付けた)は、こちらをじっと見つめるだけで、何も言わない。

 ———え、怖いよ?よくラノベに出てくる商人とは違って、物理的に怖いよ?


 「キュリフィンドル殿、この御子息?御息女?殿は何故喋らないのですかな?」


 え?聞こえてないの?あ、もしかして念話はだからかなぁ…。でも、父さん達も念話だし…。

 そんな風に悩んでいると、父さんが代わりに念話してくれた。


 『この子はキャルロジックで、僕達の息子です。この子はまだ生後3週間で種族進化していないので、まだ僕達の種族としか喋れないんですよ』

 「その種族進化?というのはよく分かりませぬが、とりあえずまだ喋れないというのは分かりましたぞ」


 あ、オレの喋ってる事って、他種族には聞こえて無いんだ。

 ———スライムに話しかける癖、今のうちに直しておこう…。


 「キャルロジック殿、これからよろしくお願いいたしますぞ」


 とりあえず、頷いておいた。



 モヒカン商人Xは、父さんに森の外まで連れて行ってもらって、その日には帰って行った。

 父さんに、湖の件がバレずに済んでよかったね!

 オレはモヒカン商人Xと喋れないので、湖の件は、オレの心の中でだけにとどめている。


 『ねぇ父さん、オレも他種族と念話できるようになれるかな?』

 『もちろん。諦めずに進化していったら、いつかは絶対なれるさ』


 そのいつかって、いつなんだろう…。

 オレも、モヒカン商人Xと喋ってみたいな。


 『父さん父さん』

 『ん?どうしたんだい?』

 『モヒカンしょ———商人さんが言ってた、近くの国って何?』


 危なかった。危うくモヒカン商人Xって言っちゃう所だった。


 『ああ、ゴルリルラル王国の事かな?』

 『え、何その名前…』


 なんだかゴリラしかいなさそうな(安直)名前の国だねー…。


 『確かその前がチリルパンジル王国だったかな?でその前がヒューマルン帝国。その前が————』

 『あー父さん、もう大丈夫だよ!?』


 確か父さんって、いま150万歳だっけ?これ以上続けていたら無限に出てきそうだわ…。


 『そう?もういいの?これから言う、チリルパンジル王国の姫と、野生のゴリラとのラブロマンスなんか、面白いのに…』

 『それは確かに面白そうだけど…』

 『ちなみにその姫は猿顔だよ。コンプレックスだったのを、そのゴリラに認めてもらって恋に落ちたんだ』

 『……余計気になる。てかなんで父さんはそんな事知ってるの?』


 結構深くまで知ってるね?


 『そりゃあ現場に居たからさ。人族の本にも、ゴリラの相談役の凛々しいオオカミとして出演してるよ』

 『キャロ、この人ってば300年くらい前に3年程出掛けたと思ったら、ゴリラの相談役をしてたのよ?妻を放って、酷いと思わない?』


 この後の父さんがどうなったかは、想像するのは簡単だ。

 逆にすごいよ父さん……。

 ウチの悪の帝王を放って、ゴリラの相談役をしてるんだから…。


 


 後日、狩りを終えた父さんは、またモヒカン商人Xを連れて、戻ってきた。

 側には小さな少女を連れて…。


 「すまない、またキュリフィンドル殿に助けて貰っちゃったぞ」

 

 この人、学習しないのかな?

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