第4話 ファースト・1番・最初、の進化

 オレ達家族は、群れで行動していない。ウルウルの絶対数が少ないからって、父さんが言ってた。

 色々なところを放浪しているので、良い獲物が獲れるときもあれば、そんなに美味しくない獲物が獲れる事もある。


 『ねぇキャロ、今日は君だけで獲物を狩ってみないかい?もちろん、父さんも見ているから』


 生後3週間の息子に狩りをさせるとは———世の中厳しいなぁ〜。楽しそうだし、良いんだけどね。

 —————よく考えたら、自分の口で仕留めるんだよね?それを楽しそうって、オレもいよいよオオカミだな。


 『よし、父さん、オレは獲物を狩るよ!デストロイラビットを狩ればいいの?』

 『え?デストロイラビット?あ、ああ、アレは………。

 ——————キャロは、1匹で人間の国を滅ぼすウサギを、生後3週間のウルフが狩れると思うかい?』


 え、オレってば、そんなエグいやつ食べてたの…?今からウサギさんに謝った方がいいかな?


 『—————分かった。じゃあ何を狩るの?』

 『付いてきなさい』


 そう言われて着いていくと、いつもの湖に出た。放浪していると言っても、チョロチョロ動いているだけなので、水飲み場とかはいつもここなのだ。


 『着いたよ。キャロ、アレが見えるかい?』

 『えっと…上半身裸でモヒカン頭でムッキムッキで、ブラジャーと女物のパンツを穿いている男の人のこと?』

 『ううん、そんなデストロイラビットよりも危険な物じゃない。アレだよ』


 今度こそちゃんと見るとそこには、スライムみたいな身体のウサギがいた。


 『アレはゼリーラビットって言って、スライムと並ぶ最弱の魔物だよ。と言っても、スライムよりは速いし賢いけど、どうせゼリーだから気にするほどじゃないよ。

 どうだい?生後3週間にちょうどいい魔物じゃないかい?』


 いやそもそも普通は、生後3週間で魔物狩ったりしないんだけど…。

 ———ゼリーラビットが、うるうるとした目でこちらを見つめてきた。な、何!?


 (た、戦いはもうここから始まってるとでも言うのか!?くっ!あの目で戦意が削がれる!)


 父さん、どこが最弱だよ!この愛くるしさ、世界でもトップクラスに立てるよ!


 『ああ、あの上目遣いは、飛びかかろうとしているだけだよ。

 父さんも一回食らっちゃったなぁ…』


 え?ウソ、痛いの?


 『いや全く?あの時は土ひとつ付かなかったよ?』


 そう言う事なら…。そっと甘噛みすると、『キュイッ!』って言いながら溶けちゃった。最後まで可愛かったなぁ……。

 でも、うん。ザコッ!

 初めての狩りがこんなのでいいのかな?って思ったけど、オオカミだしいいんだろう。オレの思考も、段々魔物脳になっていってる気がする。

 尤も、あの目で見つめられたら、前世のオレでは全く攻撃できずに歯が立たなかったと思う。

 そう考えたら成長(?)したなぁ〜。

 そんな事を考えてたら——


 "基準値が一定に達しました。次の行動をすると、進化が開始されます。


 スライムを10匹狩る 00/10"


 何これ?進化?


 『キャロ、アレが出たんだね?分かる、分かるよぉ〜。父さんも昔君のお爺さん、僕のお父さんに、『デストロイラビットを見つけたと思ったら、デストロイラビットの格好をして、デストロイラビットを夜に誘っている親戚を見ちゃった時の顔』、みたいだって言われたよ〜』


 なんなのその複雑かつちょっと分かってしまう例えは…。


 『と、とにかく父さん。ここに書かれてることをすれば進化できるの?』

 『そうだよ。あ、言い忘れたけど、進化っていうのは2種類あるんだ。

 普通の進化。これは、単純に身体能力が上がったり、ちょっとカッコよくなれたりする進化だよ。たまにスキルを貰える事もあるね。

 もう1つが種族進化。これは特殊で、その名の通り種族が変わるんだ。進化の時とは比べ物にならないほど強くなれるし、寿命がある限りに強くなれる。ちなみに、ウルウルから種族進化した個体から生まれるのは、絶対ウルウルなんだ。親の強さは引き継げないってことだよ』

 『父さん、寿命って何歳?』

 『んーと確か30億ぐらいだったかな?だから、初代のウルフインザ・ウルフはまだ生きていると思うよ?この世界は、生まれてからまだ5000万年ぐらいだし。

 あ、僕はまだピチピチの150万歳だよ?若いでしょ?』


 何という事でしょう、オレ達は30億年生きていられるそうです。しかも今なら何と!究極のモフモフもお付けします!これぞ究極の美ですね。


 『父さん、とりあえずスライム10匹狩ってきていい?』

 『うん、いってらっしゃい』


 初めての進化って、なんかドキドキするな……。







 『ごめんねー。よし、あと1匹で10匹だね』


 最初は警戒して牙で仕留めてたけど、もう今となっては足先でチョンだよ、チョン。


 『お、第10スライム発見〜』

 『チョン』

 『イムムム〜〜〜〜〜!』


 さーて?どうだろうか?


 "指定された行動を確認しました。これより進化を行います。10秒間目を瞑ってください"


 何故だか、目を瞑るという行動にさほど違和感を覚えなかった。


 きっちり10秒経ったあと、オレは目を開けると、さきほどよりもクリアな視界が開けた。身体も心なしか軽いし、おそらく進化したんだろうなぁ〜。

 これは中々、ハマりそうなものを見つけちゃったかもしれない。

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