第2話  かーみーさーまー

 「……これは、なんだ…?」


 オレは今、白いとしか表現できない空間の中で、1つの映像を見せられていた。妹の上舞と母さんが泣き崩れている映像だ。

 それにしても妙にリアルで、まるで今起きているかのような………。


 「お察しの通り、それは今貴方様のご実家で実際に起こっている事ですよ、世渡九狼様」


 そう言いオレに話しかけてきたのは、1人の女性だった。すごく綺麗で、言葉に表しにくい————人外の美しさというやつじゃ?

 この白い空間といいこの映像といい人外(推定)といい————もしかして神様なんじゃ?


 「はい、その通りでございます。本当に察しがいいですね。申し遅れましたが、私、この世界を管理する神の一柱で、アマテラスオオミカミと申します。どうぞ、アマテラスとお呼び下さい」


 この神様…アマテラス様は、中々腰の低い神様だ。


 「それじゃあアマテラス様、オレはなんでここに居るんですか?オレって確か、死にましたよね?」


 思い出したくないけど、あの憎っくきライオンの顔は、鮮明に覚えている。そしてあの、むせかえるような血の臭いも————。


 「それに関しましては、私が貴方様の魂を連れてきました。なので今は、貴方様は魂のみの存在です。

 ここは結界を張っているので大丈夫ですが、魂のみの貴方様は、ここから一歩でも外に出ると消滅してしまうのでご注意下さい」 


 そ、それを早く言ってよ……。好奇心からつい外に出てしまうところだったじゃないか……。

 するとアマテラス様が、神妙そうな顔をしてこちらを見てきた。


 「九狼様。この度は、本当に申し訳ございません」


 そう言って頭を下げるので、心当たりの無いオレはなんだか申し訳なく思ってしまう。


 「今回の事は少し特殊でありますゆえ、心当たりがないのは仕方がない事です」


 とは言え、神様にずっと頭を下げられるのは、絵面的に良くない。なので理由を教えてもらう。


 「はい、それでは。

 ———むかしむかし、ある神が、有給が貯まったからと言って、お忍びで地球に出かけました。彼は、前々から人間の職業を体験したいと言っていまして、さまざまな職業を体験した彼は、動物園の飼育員を定職にしました。彼自身獣神なので、そこの動物達と気が合ったのでしょう。加護を与え、動物の話相手をしていたそうです。その動物達は毛並みも美しく、健康的な肉体になっていきました」


 あぁ、だから最近双六大豆動物園の人気が高くなっていたのか。

 馴染みのの動物園だから、結構嬉しかったんだよなぁ。


 「そんな平和な空気の中、ある1匹の動物がやって来ました。そう、DVライオンのカムパムです。

 カムパムは、その神の前ではいい人(ライオン)を装っていましたが、流石に神にはバレてしまい、妻と子供を殴っている様子を見られてしまいました。それに怒った獣神がそのカムパムを殺そうとしますが、動物園の事を思い、檻だけをボコボコにしました。

 そして逃げた恐慌状態のカムパムの前に現れたのが————」

 「オレ、という訳ですね」

 「はい…………。ウチの神が、本当に申し訳ございません」


 神様に謝られたら、なんか居心地悪い……。

 

 「い、いえ!アマテラス様が謝られることではありません。そのライオン、ガ○ダムでしたっけ?とにかく、そいつがDVなせいです」


 アマテラス様の話には妙な説得力があった。

 洗脳されてるわけじゃないと信じたい…。


 「そう言っていただけると幸いです……。しかし、我々が主な原因で貴方様が亡くなられたのは事実です。

 ————なのでお客様には、こちらのプランをご紹介させて頂きます!」


 おう……いきなりジャ○ネットになったぞ?あと貴方様からお客様になってる……。

 なんだか少し残念臭の漂う女神様だ。


 「なんとこちら!今話題の『これでオレもハーレム主人公!転生してチートする!』でございます!」


 何が今話題の〜だよ………、最高じゃん!

 ハーレムは別にいらないけど、2度目の人生ってやっぱり憧れるよね!

 これまでやれ無かった事、思う存分楽しんでやる!

 —————って思ったけど、やっぱり面倒臭い………。


 「あ、ちなみに今なら!スキルなんでも一個付いてきて、容姿も好きに変えられます!」

 「よしのった!」


 顔の見た事無い父さんや、母さんが産んでくれたこの顔に、愛着が無いって言ったらウソになるけど————。オレの頭の辞書では、『イケメンだったら、最低、チートが無くとも異世界で生きていける』——って書いてある。

 だから、誰が言ってもイケメンだけは譲れない!


 「ありがとうございます〜!ではさっそく、容姿に対してのご意見をいただきたく———」

 「う〜んそうだなぁ〜。鼻筋がスッと通ってて、全体的に筋肉質で、それでいて細身で、耳は少し尖ってる方がオレ的にはいいかな。もう、見ただけで凛々しいっで感じになるようお願いできますか?」


 容姿の事だから、少し曖昧になってしまったけど、女神様なんだし伝わるでしょ。


 (なるほどなるほど、凛々しいね…。じゃあ"アレ"しかありませんね!)


 容姿の事をアレとか言ってる辺り、女神にはちゃんと伝わって無い事を、九狼は残念ながら知らない。


 「はい、承りました。では、スキルはどうします?」

 「それって何でもいいんですか?」

 「ええ。世界の理を捻じ曲げるような物は、流石にダメですけど」


 まぁ、それはそうだろ。これから行く異世界が、オレのせいでめちゃくちゃになったら笑えない。


 「じゃあそうですね……。解析、とかどうですかね?いけます?」

 「おや?ここは無限の魔力〜とか、スキル強奪〜だとか、鑑定〜とか言うと思ってました。一応聞きますね、ファイルアンサー?」


 貴方は人をなんだと思ってるんだ………。

 あとそのネタどっから持ってきたの?まぁ、オレも最初はそうしようかと思ってたけど。


 「解析で合ってますよ。いや〜鑑定にしようと思ったんですけど、鑑定できるだけじゃ、なんかどうしようもないなぁ〜って思いまして」

 「なるほど、一理ありますね。では、そういう事で処理しておきます」

 「処理って……書類ですか?」


 何その会社的なあれは………。


 「全ての世界をまとめる、親みたいな神様の事ですね。家族風に考えるなら、私は次女です」


 うん、別にいらないかな最後の情報。


 「じゃあはい、これ」

 「何ですかこれ?」

 

 なんか白い粉を渡された。危ないブツじゃないよな?

 それといつの間にか、最初の敬語、使う気無くなってるな……。


 「これは、スキルの粉ですね。飲むと、その粉のスキルを手に入れられます。この場合は、解析になってます」

 「へぇ、すごいですね…」

 「まぁそういう事なんで、飲んじゃってください。ほら、イッキイッキ」

 「ちょ!?うげっ、ゴホゴホッ!いきなりやめ————」

 「はいそう事ですからさよなら〜」


 そう女神様…いや、この人に敬称なんているのか?女神は、突如空いた穴にオレを突き落とした。


 「嘘だと言ってぇ〜〜〜!?」


 もちろん嘘なんかじゃなく、オレの意識は遠のいていった。






 「ふう、あの人"アレ"に転生したいだなんて、変わった人ですね。良い人なんですけど……。

 とりあえず、初仕事大成功ですね!」


 この事を知った九狼が、また怒りを膨らますのは、別の話だ。

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