女神様の凛々しいは、人外のようです〜異世界に転生したらオオカミだったけど、進化出来るなら別にいいです〜

たくアン

キャルロジックの始まり

第1話  死んだ!

 「また明日なぁーカズキー」

 「おう、今度遊ぶ時は絶対来いよー」


 オレの名は九狼新一!……じゃなくて世渡九狼だ。

 ちょっとハイテンション気味に、某中身大人系名探偵のような自己紹介をしてみたけど、オレには合わないみたいだ。

 今日、オレがハイテンションで遊ばずに帰るのには理由がある。以前ハマっていた小説が、何とこの度アニメ化されたらしいのだ!

 これを聞いて分かる通り、オレはオタクだ。これは学校の奴らも知らない、深い深〜い秘密なのだ。

 あ、アイドルに人生を捧げる方のオタクじゃなくて、異世界転生とかそういうヤツの方だ。

 正直、これが学校の奴らにバレた日には何を言われるか分かったもんじゃない。この事は、将来のつ、妻や子以外には、墓まで持っていく。

 そうこう話している内に、家の前に着いた。玄関を開けて、家に入る。


 「…はぁ〜〜〜」


 憂鬱、ホント憂鬱だ。さっきまでは、新作アニメを観れると思うと浮かれた気持ちだったけど、ある人物のことを考えると、途端に今のような気持ちになってしまった。

 その時、その人が現れた。


 「あ、クソ兄貴やっと帰ってきたじゃん。さっさとアイス買ってきてよ。ハッケンダーツ」


 高校生のオレのお小遣いでは、結構厳しいハッケンダーツをねだるこの女は、妹の世渡上舞(中2)だ。

 

 「イヤだよ。それに、オレのお小遣いがもうほとんど無いっていうのは、上舞だって知ってるだろ?」

 「え、何、またあんな(異世界系)漫画買ったの?キモいんですけど」

 

 おい妹よ、今の言葉は、日本中の全ての漫画好きを敵に回すからやめなさい。

 はぁ……上舞は転生の良さを全く理解してないな。


 「いいか?転生っていうのはな、すごいんだぞ?まず、自分の人生をやり直せるっていうのが———」

 「ああ〜!そういうの良いから!さっさとどっか行けクソ兄貴!!」


 部屋に押し込まれてしまった…。まぁ、アニメを見逃すこともないし、結果オーライだな。

 ウチは両親が離婚して、母さんと上舞とで3人で暮らしている。その頃になってから、上舞が冷たくなった気がする。昔は、お兄ちゃんお兄ちゃんって、可愛いかったのになぁ〜。

 まぁ、それでも唯一の妹だし、アイスぐらい買ってきてやるか。ハッケンダーツはダメだけど。


 「おーい、上舞ー。今からアイス買いに行くんだけど、何がいい〜?」

 「っ!…ハッケンダーツ」

 「オーケー、ガリガリヤセッポッチ君な。柚子胡椒ラー油味で良いよな?」

 「ガリガリヤセッポッチ君じゃないっ!それと柚子胡椒ラー油味って何!?」


 流石に柚子胡椒ラー油味は冗談だけど、ガリガリ君を買ってくるつもりだ。

 アニメは録画しているし、また後で見ればいいだろう。


 「母さーん、行ってきまーす」

 

 そう声を出すと、母さんが顔を出した。相変わらず、今年で35歳になるのに若々しい母だ。

 周囲のママ友たちから、ずっと美しいもうほとんど魔女、略して美女って呼ばれてるって、誰かが言ってた。


 「あら、もう6時よ?どこに行くの?」

 「ちょっとコンビニに」

 「家に無い物なの?」

 「うん、食後のアイスでも買おうかと思って」

 「それはいいわね、ついでにお母さんのやつも買ってきてくれないかしら?お金は私が出すから」

 「お金は大丈夫だよ。いつもお母さんには世話になってるから、オレのお金で払うよ」


 このお金がお小遣いなのは、ご愛嬌だ。


 「ふふっ、ありがとう。じゃあ、お願い出来るかしら?」

 「もちろん」

 「あ、兄貴…」

 

 あ…いつものクソ兄貴じゃ無い。ここでツッコむと話がこじれそうなので言わないけど。


 「どうかした?」

 「わ、私……シャボンモナカでいいから」

 「いいね、分かったよ。母さんはどうする?」

 「私は何でも良いわ。でもそうね……上舞ちゃんと一緒にするわ」

 「オーケー。じゃあ、行ってきまーす」

 「ええ、いってらっしゃい」


 オレがそう言うと、母さんは微笑んで、上舞はちょっと手を振ってくれた。いつもそうしてれば良いのになぁ〜。


 この時のオレは、これが家族と話す最期の時になるなんて、微塵も思っていなかった。



 「〜♪ありがとうございましたー」


 聞きなれたセ○ンイ○ブンのリズムと共に、コンビニを出る。

 実はモナカが少し値上げしていて、まだ何か買えると思っていた所持金も、今はほとんどゼロに近い。

 袋から感じるアイスの冷気は、夏の蒸し暑い夜には心地いい。

 

 スマホでニュースを見ながら(歩きスマホダメ絶対)歩いていると、ふと気になる記事を見つけた。


 「動物園の檻が半壊……ライオンが脱走?しかも双六豆動物園って、この近くじゃないか!」


 何と、そういう事らしい。

 これは急いだ方がいいかもしれないと思い、駆け足で家に向かう。

 すると、近くの路地裏でガサガサ物音がした。結構大きい音だった。

 もしかしてと思い、そっと覗くと、——案の定、そこには脱走したと思われるライオンが、ゴミ箱をいじくり回していた。


 「ヤ、ヤバい!これは絶対連絡した方がいい!こ、ここは警察か?それとも動物園なのか?」


 もたもたしていたのが原因か、はたまた少し声を大きくしてしまったのが理由だったのか。


 「グルルルルル……」

 「う、うそ……だろ?」

 

 こちらに気づき、ライオンは低い唸り声を上げてすぐそこまで迫って来ていた。

  

  「くっそ!とりあえず警察に連絡を!」


 (な、何か!何か手はないのか!)

 

 そう思い周囲を見渡すも、殺伐とした路地裏は、ライオンに対抗出来そうな物は何も無かった。


 (………………そうか、オレもここまでか…。意外と短い人生だったなぁー…。正直、ライオンに食われて死ぬなんて普通の人生じゃありえないよな…)


 そんな自虐をしてみたけど、死ぬ事への不安が消える訳じゃ無い。

 しばらくするとライオンは、しびれを切らしたのか、こちらに飛び掛かって来て、オレの喉元に食らい付いた。


 「ッ〜〜〜〜〜〜!!!!!」


  喉元に牙を突き立てられたせいで、オレは声にならない悲鳴を上げた。

 首からポンプのように血液が溢れ出て、もう助かる事がないというのが、感覚で分かる。


  (どうせなら最期に、上舞と仲直りしておきたかった……。アニメも見れなかったし…………あぁ、死にたくないなぁ………まだ…………生きて…いたい……………………)


  そんな思いも虚しく、オレの意識は暗転して、再び目を覚ます頃には、白い空間にいた。




◇ ◇ ◇ ◇


 「……兄貴遅いね。なんだかライオンも脱走したっていうし」

 「ふふっ、上舞ちゃんは九狼の事が心配なのねー!」

 「そ、そんな事ないし!兄貴なんてくたばればいいし!」

 「ふふふふふふ、そうなのね〜!」


 反抗期の娘といえど、一家を支える母親には敵わないようだ。


 「も、もう!お母さん黙って!兄貴には連絡しといたし、何かあったら連絡してくれると思うし…」

 「そうねそうね!兄妹仲が良くて、お母さん嬉しいわ〜」

 「ッ!な、仲良く無い!兄貴なんて嫌いだし!」


 結局その日は、九狼が帰ってくる事は無かった。



 次の日、2人は、九狼の事が心配で、いつもより早い時間に起きてしまった。


 『ピンポーン』


 その時、2人しか居ないリビングに、無機質なインターホンの音が鳴った。


 「あら?こんな時間に誰かしらね?」

 「お母さん、詐欺かも知れないし気をつけてね」

 「ふふふ、安心して。私はこれでも、市役所のクレーム対応係でエースをやっているのよ?」


 キャリアウーマンな母親、世渡いなす であった。


 「はい、世渡です」

 『朝早くに申し訳ありません。失礼ですが、ここは世渡九狼君の住居で間違いは無いでしょうか?あ、申し遅れました、私は警察の者で、刑事の堂本です』


 堂本はそう言って警察手帳を取り出した。


 「はい…私は九狼の母親で間違いは無いですけれども……警察の方が、どうかされたのでしょうか」

 「———すみません、この先は中で話した方がよろしいかと思います」

 「もしかして、九狼に何かあったんですか!?」

 「———————」


 その沈黙が、答えのようなものだった。


 「ッ!!!!……この先は、どうぞ中でお話しください………」


 堂本をリビングへと案内して、皆席に着いているが、沈黙が場を支配していた。


 「あの……兄貴に何かあったんですか?」


 沈黙を破ったのは、上舞だった。


 「…………昨日の、およそ18時30分頃の事です。通信捜査司令室に、一本の電話がかかってきました」


 堂本は重い口を何とか動かして、ポツポツと喋り出した。


 「電話に出ても誰も喋らないので、私達も最初は間違い電話や迷惑電話の類だと思い放置していました。しかし、10分、20分、果ては1時間経っても電話はかかったままでした。

 その付近でライオンが脱走していることもあり、私達は警官2人を向かわせました。するとそこで見つかったのです、

 —————————世渡九狼君の遺体が」

 『ッ!!!!???』

 

 いなすと上舞は信じたく無いといった顔で堂本を睨みつけた。


 「九狼君は、何者かに首を鋭利な物で突き刺されており、発見から50分前にはもう、すでに亡くなっている状態でした。凶器は無く、首には2つの大きな穴が空いていました。そう、まるで2つの大きな牙を持つ、何かに、首に食いつかれたかのような…」

 「ッ!…まさか……」


 その言葉で、いなすと上舞は、何が起こったのかを明確に理解した。


 「九狼は…九狼はもう、帰ってこないって事なのね……!」


 2人の涙は、もう、誰にも止める事は出来なかった。

 

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