第17話 津山社長、動く
週刊くるま情報も新年度に入り、全社版で紙上オークション企画がスタート、4月の3週目の号へ掲載準備が進行していた。
山鹿史矢率いる福岡版ではヴィンテージでも少し新しめのセリカXX2800GT。イギリスのスポーツカーメーカーであるロータスとの関係が深まったトヨタがソアラとともに高級スポーツ車に仕立てた1980年代のクルマで、山鹿も若い時に憧れたクルマである。ストレート6のツインカム大排気量エンジンをマニュアルで走らせる、当時も高価だったのでターボ車では得られないフィーリングを楽しんだ人は一握りだったが、スタイルもイギリス車のロータス・エスプリに通じるものがあり今でも古さは感じないので、物が良ければ欲しい人はいるはずだ。
本社の社長室では熊田専務が年度の決算書類を見ながら津山社長と打ち合わせ中。徐々にインターネットでの情報拡散が進んでいることもあって関東地区と関西地区は販売が下降気味、中部や九州の西部地区は横ばい、広告収入も同様だが、九州の紙上オークションが全体のマイナス分を補ってトータルをプラスにしていたので、なごやかな談笑だった。
「これで紙上オークションが全社的にプラスになれば紙(週刊誌)が減っていっても当分はしのげそうだね」
「はい、あとは安定してクルマを供給してくれる店の確保次第ですね、福岡の西部支社では山鹿君がそれを効率良く確保してくれたので」
「それだ。ここ(東京本社)では大藪さんが紙上オークションの指揮を執るにしても彼自身は動かないでしょ、代理店回りばかりで現場の店は行ってないから」
「そうですね、(営業課長の)宮原さんと(主任の)吉田さんにさせるんでしょうけど」
「それでうまく回らないなら山鹿君を本社に呼ぼうと思っているんだ」
「ああ、彼はオークション部の部長ですから本社にいても異論はないですし、それなら山鹿君に心の準備をしといてもらわないと、ですね」
「よしよし、これでひとまず、安心だ」と津山が安堵の表情を見せたところで熊田専務が問いかけた。
「津山さん、体調的にはだいぶ良くなったみたいですね」
「このところ頑張ったんだ。でも、もうすぐ還暦だしね。疲れるよ」
「あ、さっき経理室と税理士の先生にも言っておいたんだけど、熊田専務に全社の決済を代行してもらえるようにしておいたから。私が不在の時はよろしく頼みますよ」
「津山さん、いつもいきなりですね。そんな時は、ということで承知いたしました」
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