第16話 桜舞い散るスケッチ会

 新学期、初日は芸術コース美術専攻クラスの新入生歓迎もあって校内スケッチ会を開催。美術コースの3学年84人が思い思いの場所へ散った。3年生は3時間のうちの前半で自分のスケッチを終えた者から新入生の描写指導に付くことになっていた。2年の時は早く終われば遊びの時間になっていたが、今回はそうもいかない。

 麻矢は麻衣子や由香里たちとはらはらと桜の花が舞い散り始めた木の下に陣取った。

「去年もここだったね」

「ここ、先生たちからはけっこう死角だし、のびのびできるし」

「さくっと描いちゃえ」

「だめよ、早く描いても1年生に付かないといけないし」

「ここならのんびり描いても大丈夫っしょ」

「こらこら、どこが死角だ」と山田先生が桜の木の陰から現れた。

「だめだめ、先生はピカピカの1年生に付いてないと」

「いいの、副担任が付いているから、別に監視に来たわけじゃなくて。~ここには市村君と林原君は近寄らないよな」

「たぶん、ボクら全然仲良しじゃないし」と麻矢。市村は黙って我が道を行くタイプだし、林原は勝手にライバル視しちゃてくれるもんだから必要最小限の業務的な会話しかしていない。こんな状況でなんとか丸2年が過ぎた。

「そこで相談なんだけど、新たな部長の件」

「先生、まだ決まってないの~」

「最近は何もその話題にならないから林原君に打診して決まったのかと思ってましたよ」

「その林原君が荷が重いって」

「でしょ、林原君も関東への受験、急に決めたみたいだし」

「それでいくと野見山先輩はよくやってくれましたよ、家が遠いのに」

「んで先生、ここに改めて打診に来たんですねえ」

「先生、部長って、部をまとめる、マネジメントするってことなんでしょうけど、なんか損な役回りと思いません?」

「部を率いるキャプテンだしね」

「率いるってとこがプレッシャーだよね~」

「そこで、相談なんだけど。君ら3年は割とまとまりいいでしょ。だから行事の時に全体を盛り上げるように旗を振ってほしいんだ」

「ほらほら~頑張れ~って?」

「そうそう、森本さんから大きな声が出ただけでみんなが注目してたでしょ。それでいいんじゃないかと」

「ん、はい? え、アタシ?」

「はい、森本さんに部長をお願いしたいのです。頑張ってくれませんか」

「そだね、麻衣ちゃん、いつも通りにやってればいいのよ」

「でも先生、アタシ野見山先輩のように上手にはできないし、行事の時の報告書なんか面倒だし」

「あ、それワタシが手伝うから」と山本由香里が助け舟。

「ほんと~、きゃ~助かる~、ありがとう、ゆっか。って、引き受けちゃってるしアタシ」

「よし、今年度の部長は森本さんに決定。ありがとう、よろしく頼むよ。あ、よかった~。今日の部活で発表できるし」と麻衣子の頭をなでなでする仕草の山田先生だった。

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