第18話 長崎中華街でカステラと角煮まんじゅう
日産から1998年にモデルチェンジされて発売されたスカイライン10代目R34型は将来的には絶滅危惧種となるストレート6(シックス)、直列6気筒エンジンの搭載が継続された。完全バランスといわれる低振動のガソリンエンジンはシュルシュルと静かに回るため古くから国産車ではグロリアやクラウンなどの高級車に搭載されていた。しかし21世紀が近づくその時期からスペース効率に優れるV型6気筒が高級車に搭載されるようになり、一時は2000ccどころか小型車用の1600ccのV6エンジンも登場した。V型6気筒エンジンは総全長が理論的に直列6気筒の約半分になるため、デザイン的にボンネット部を短く作れること、コンパクトなのでミッド(車体の中央部)に搭載しやすいことからスポーツカーやワンボックスカーにも応用された。直列3気筒を並列した形のV6は振動面で不利とされていたが、振動対策が施された新型V6が市場を席巻しつつあった。
衝突時の安全性確保も自動車メーカーの命題となっていたため大きく長い直列6気筒の搭載は不利とされ、結果的に販売面も振るわなかったR34型は短命に終わり、2001年にR35型にモデルチェンジされたスカイラインは新型V6を搭載、2500cc以上の搭載となり、一気に高級車路線へ舵を切ったため「速いハコ(スポーツ車)」として支持を得ていたかつてからのスカGファンはそっぽを向いた。R35型はスカイラインではなく別の車名で登場させるべきだった~など30年以上もスカイラインGTの根幹で象徴だった直列6気筒を捨てたことで長年のファンたちのスカイライン離れを促進してしまったのだ。
本来なら高級車に搭載される静かな直列6気筒エンジンをマニュアルミッションで走らせられるR34スカイライン2000GTの5速トランスミッションは加速重視になっているため100㌔のスピードで3100回転を示すタコメーター(エンジン回転計)。そのスピードならステレオスピーカーから聴こえる奏(かなで・スキマスイッチ)も心地良い。
桜が開花を始めた3月の日曜日、昼前には高速道路で諫早を通過、順調に長崎市に向かっていた。2月は市内のランタンフェスティバル見学を予定していたのだが、前日に大雪警報が発令されて2月のドライブは断念した山鹿史矢。数年前までは毎月のように社用車で走っていた長崎の中古車ショップらは山鹿を成長させてくれたところなので、その店主たちとの商談模様が脳裏に浮かんでくる。
1990年代は国産車が軒並みパワーアップ。軽自動車のターボ武装は当たり前、2000㏄クラスもターボ化で200馬力前後を誇り、2500㏄なら280馬力を誇るクルマも乱立。300馬力も時間の問題だったが、各社で自主規制となり上限が280馬力となった。R34スカイラインは標準車のGTターボが2500㏄で280馬力、GT‐Rは2600㏄なのに同じ280馬力、最大トルクの差で優位なだけだった。
ただしこれは吊るし(市販車)でのことでレース仕様への改造が前提のGT‐Rはターボの過給圧調整や音量を絞らない高効率のマフラーへの交換で容易に400馬力が発揮できる仕様で、400馬力仕様に違法改造されたGT‐Rが首都高速をぶっ飛んでいる時代だった。
そんなGT‐RがラインナップするR34スカイラインは20世紀末期の日産自動車が世界に誇れる技術力をふんだんに盛り込んでクルマ好きをわしづかみにした。この世代のGT-Rまでが「スカイライン」を名乗っていたこともプレミアム感を増している。
R34スカイラインGT-Rは別格で高価でもあったため乗れる人は限られたが、その高剛性ボディーによる絶妙の足回りと完全バランスのストレート6(直列6気筒)エンジンは、吊るしの最廉価モデルで総額250万円で買えた2000GTも同様で、マニュアルミッション5速でなら最高のドライビングプレジャーを誇った。
気分良くドライブしているところに携帯電話に着信。麻郁に出てもらうと麻矢だったらしく、冷蔵庫の食材について尋ねてきたらしい。
「いいよ、作って食べて。あ、麻衣ちゃんも来てるの、仲良く食べなさい。換気扇付けるのよ」
「アー君、お昼用にパスタ作るって。山上君と麻衣ちゃんと一緒に」
「いいねえ、アー君、モテモテだねえ」
「そうねえ、家に居たら必ず誰か遊びにくるもんね、中学の時から」
この長崎ドライブは2月に食べられなかった中華街の海鮮ちゃんぽんを食べに出かけたわけで、ゆっくり食べてお土産を買ったら往路とは別のルートで帰路を走る。多めに買っておけば友達たちがいても晩ご飯代わりにもなるかな~と長崎カステラと角煮まんじゅうを袋に詰めてもらう2人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます