第13話 メジャー~頂点~へ歩み始める

 1995年にメジャーリーグにチャレンジした野茂投手、2001年から渡米したイチロー外野手ともに日本人メジャーとして大ブレイクを果たした。

 野茂投手がトルネード投法でノーヒットノーランを達成した時(2度目・2001年)は中学生になった麻矢が大感激、父・史矢にフォークボールの投げ方を教えろとシツコかった。

「こらこら、フォークは手が大きくないと無理だから。つうか、まっすぐが、ストレート(直球)がビシッと低めに投げられないと意味ないし」

「ストライクを入れる為に力加減した緩いストレートならバッターの手元で緩い球になるやろ、それじゃフォークの意味がないし」

 ちゃんとしたフォームを作ってストレートを投げられんやつに変化球は早すぎる。

 史矢の野球好きも中学生のときから始まっており、愛読書はマンガ「ドカベン」だ。

 一方、麻矢の愛読書は、これまたマンガ「MAJOR(メジャー)」、テレビアニメもよく見ていた。少年誌での連載も1994年頃からスタートしており、まるで野茂投手のメジャーリーグ行きを予見していたかのようなタイトルで、主人公もメジャーリーグ入りを目指す展開なのは周知の通り。

 マンガやアニメの主人公は、たやすく必殺技を身に付けてしまうようにみせるが、実際はそうはいかない。麻矢の地肩の強さは史矢も認めていたが力任せに投げるフォームが制球力の無さに繋がっており、まず力を入れたときのフォームを安定なくして変化球の練習はない。

「変化球ったって、いきなりフォークはないって」

「オトさんがたまに投げるちょびっとカーブと、たまにスライダーとか?」

「横の変化なら手が小さくてもイケるから」

 高校生になっても、たまには親子でキャッチボールをする2人。野球部に入るつもりだった麻矢のコントロールは格段に良くなっており、暴投の連続で取りきれずに球拾いに行くことはなくなっていたので、加齢で体力減退ぎみの史矢には大助かりだった。

「オトさん座って、ラストにフォーク投げるから」

 野茂投手を真似たフォームから放たれた1球、史矢は地面すれすれでキャッチ」

「落ちたでしょ、今の」

「落ちたんかなあ、これ」

「落ちてたし」

「ピッチャーはコントロール第一だから、これくらいなら部活でも投手ができたかもね」

「もともと投手だったイチロー選手、メジャーで今年も打つかなあ200本」

「簡単じゃないよ、研究されるからね、守備位置も研究されて内野安打が減ってきたし」

 野球の話のまま食卓へ行くと夕食の支度ができていた。

「こらこら、手洗い手洗い。ボール遊びしてたんでしょ」と母・麻郁。

「あの先輩の、浪人してた大和さん、東京藝大受かったの?」

「絵画科油画専攻55人の1人ですよ」

「すごいね、やっぱり。最初の高校展示の時にモノが違うってあの先輩でしょ」

「それでアンタ、大学どこ目指すか決めたの? 」

「それで、ボクも東京へ行こうかと」

「東京藝大へ行きたいの?」

「入れるもんなら、頑張ろうかと」

「いいよ、頑張れよ」

「え、いいの。予備校とか、お金かかっちゃうし」

「大丈夫、父ちゃんも頑張るし。ほら郁矢兄ちゃんの夢も一緒に叶えるみたいで楽しみやし、どうせ東京には出張がてら行けるしね」

「……ありがとうございます」

「予備校も行くんでしょ、あの夏休みに行ってみた所」

「いや、新宿じゃなくて地元でいいので」

 山鹿家は一丸となって東京藝大行きを支援することになった。

 これまでまるでマンガの主人公みたいに思い通りになってきた麻矢だったが、これまでとは違う高い頂上を目指す、そのための努力が必要なことはわかっていた。

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