第12話 決心~高い壁に挑む

 県内からのセンスある精鋭が集まっている桃園中央高校の芸術コース美術専攻クラス。コンテストの入賞数は少なくても先生たちの評価が高いテクニシャンが揃っているし、新3年の誰が部長になっても悪くないのだが、立候補はナシ。部員内推薦は責任の押し付け合いになるので、結局は水面下で(先生たちによる)部長選出が行われている(らしい)。

 3年生たちが卒業して2週間後、放課後の部室に山田先生がやや上気した表情で駆け込んできた。

「ついに、ついにわが校から藝大合格者が誕生だ」

「大和剛先輩ですね、すっごい」

「きゃ~、わかっていたとはいえ、さすがですねえ」

 麻衣子や由香里たちがハシャぐ。

「あれだな、現役合格ではないから過年度生の合格者ってことになるけど、それでも芸術コース開設3期生にして藝大合格者って、こりゃまた次の受験でウチの競争率上がりそうだな」

「これって先生たちのお手柄ってことになるわけでしょ」

「手柄ってことじゃないよ。まあ実績的には専門コースらしく、多摩美大、武蔵野美大、東京造形大、そして高宮副部長は現役で女子美大、そして大和さんが東京藝術大、進学者実績としては申し分ないね、高校としては。…山鹿くん、感想は?」

 山田先生が、ぼゃっと遠くを見つめる麻矢に無茶振り。

「えっ、いや、す、凄いですね。その~大和先輩的には今回は余裕だったんじゃないですか。あの、その連絡って大和さんからあったんですか」

「うん、さっきね。合格者掲示を見て帰ってきたって。そして、もう一つニュースがあるのよ」

「きゃー、いいニュースですかあ?」麻衣子がテンションを上げる。

「大和さんの弟くんが入学するよ、新1年生だ」

「えっ、今頃わかるって、え、一般入試だけだったんですか?」

「びっくりしたよ、推薦考査のときはいなかったのに」

 芸術コースは1クラスだけで定員40人、そのうち推薦考査で32人が決まっているから残り8人が一般入試で美術と書道で4人ずつ選考される。その一般入試を受けるのは推薦考査に洩れた人がほとんどで、実技試験もある。一般だから学力考査も比重も高いのだけど、今回飛び抜けてデッサン力の高い男子がいたんだよ」

「さぁすがあ、大和さんの弟くんなら、また東京藝大に行っちゃうかな」

「おいおい、まだ高校に入学もしてないのに」

 ほぼ確実視されていた大和さんが藝大行きを正式に決めたことで麻矢も藝大に行きたい気持ちが強くなった。そのスキルがあるかどうかや将来がどうなるとかは突き抜けて~チャレンジしたい~気持ちが強くなった。これまで安楽な道ばかり歩んできた麻矢にとって、初めて高い壁に挑む、その決心が固まった瞬間だった。

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