第11話 4期生たちの進路と部活の次期部長候補
年が明けて2月、受験シーズンも大詰め。1月には既に有名私立の美大受験は終了しており、麻矢の先輩たちのうち2人が関東の美大に補欠入学資格を得ており、これから受験する東京藝大の1次試験の合否によって入学手続きをするかどうかを決めるとのこと。
その1人である野見山部長に麻衣子が励ましの言葉をかけた。
「あゆセンパーイ、すっごーい! ムサビでしょう」
「すごくないよ、補欠だもん。成績上位ではないのよ」
「でも、期限までに手続きすればイイわけでしょ」
「まあね、そうなんだけど…、うれしくないのよ」
武蔵野美大は全国でも有数の美大、ここ出身というだけでアーティストとしてのブランド価値はグッと高まるのだ。しかし、野見山部長はやや暗い表情で脱力した感じに見えた。
「ムサビ、私としてはコンディションも悪くなくて学科も実技課題もよく出来たほうだったのよ。あれで補欠なんだから。このままでは東京藝大の1次試験は厳しいってことなのよ」
「へえ、そうなんですかあ?」
「森本さんは関東へ行くの?」
「ああ、はあい、一応は美大を受けてみようかと、あ、でも東京藝大は無理ですよお」
「ふうん、そう。でも一応は知っておいて。ムサビとかタマビ(多摩美大)を上位で合格することができないと、まず東京藝大の1次試験はパスできないのよ」
「ええ~、そんなに」
「去年の大和先輩はムサビとかタマビ、両方とも補欠じゃない〝合格〟だったのよ。だから今年は絶対に東京藝大の1次も2次も完璧にこなすと思うわ、なんせ美大は受けない藝大1本だもの」
麻衣子的にはあゆセンパイに話しを聞くまでは~私も藝大を受けてみようかな、麻矢くんと一緒に~なんて妄想していたが、アーティスト志向よりアイドル志向が強い麻衣子的には~やっぱ東京藝大は私には無理だわ~と妄想はかき消すことにした。
藝大受験の本番を迎える予備校では、いよいよ臨戦態勢。その予備校出身の現役藝大生を臨時バイトに雇って直前1週間の合宿に入るので、地方の予備校も上野公園からあまり遠くない安宿を借りての実技合宿。受験生は早めの上京で受験対策に励む。1次試験の結果次第でそれで帰る人と1週間後の2次試験まで残るかに分かれる。
さすが大和先輩、今年も難なく1次を突破して2次試験に挑んだが、現役受験生の野見山あゆは1次を突破できなかったのでムサビに進学するとのこと。
「私、田舎住まいだから高校に通うだけ(往復4時間)で精一杯、とても予備校に通う余力がなかったし、無茶して予備校で勉強していれば、ひょっとして藝大もあったかもしれないけど」
「でもでもあゆセンパーイ、4月から東京の人じゃないですかあ。きゃー羨まし~い」
「森本さんも1年後には来るんでしょ、東京に」
「そうですね、九州にいてもなかなか(全国区アイドルには)ほど遠いですもんね」
森本麻衣子の上京受験は、どうも東京へ行くための手段で、やや邪心が強く思えるが、デザインや発想力はなかなかで、この約2年間に数々のコンテストに入賞している桃園中央の女子のデザイン番長。
油画コンテストで入賞を重ねる山本由香里と村田有紗、染織、彫刻、デザインで幅広くコンテスト入賞を続ける山鹿麻矢、そして市村と林原の男子3人も次期の部長候補と思われていたのだが…。本音のところはみんな部活の部長なんてやりたくなさそうで立候補者はナシだった…。
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