第10話 全社会議で大藪さんがシブシブと

 中古車市場で高値が付きやすいのは国産ヴィンテージ車、わかりやすいところでは箱スカ&ケンメリの旧世代スカイラインGT‐R、世界唯一のロータリーターボ搭載のFC&FDのRX‐7、86トレノ&レビン、初代NSXなど。程度が良ければ新車時の2~5倍の価格が付くし、トヨタ2000GTなら実働しなくても超高値が付く。若い頃に乗れなくて40年経って退職金で購入するという需要もあるのだ。

 そんなヴィンテージ車専門店の店頭だけで売るより、より広範囲の車好きに見てもらったほうが競りとなったときにより高額となるため、販売マージンが発生したとしても、それ以上に店の儲けになるという仕組みだ。

「めんどうだな、これ」と本社の大藪編集長が唸るような声を発した。

「そうですか、ただ人気の古い優良物件を探して宣伝するだけですが」

「今時はどこでもオーションで仕入れるからな、わさわざ宣伝を利用するかね」

「その買い手を全国に広げようってことですよ、今でも福岡の店に九州内でも遠方の鹿児島や宮崎からも来ていますし」と補足する山鹿に、津山社長が話を繋げた。

「そこで各支社版にそれぞれからの国産ヴィンテージ車を毎月1台ずつ出して、成約させたら良い売り上げになるでしょうが」

 つまり、各支社版まで広げようとしている「紙上オークション」とはヴィンテージ車を持っている店により多くの欲しがりの客を集められれば次第に競って売価が「欲しい値」に上がって、ウチにマージン代わりの宣伝費を払っても儲かる図式。

 山鹿が重ねるように続けた。

「大藪さんの心配もわかりますが、もちろん客と交渉するのは店。ウチは車を紹介する宣伝をするだけ。約束事として成約した値段は次号に発表して新オーナーが差し支えなければ写真と名前を公表しますが」

 津山社長が畳みかけるように声のトーンを上げた。

「新たな業務でそれぞれに負担はかけるんだけど、今まで通りの業務形態でコレ(紙上オークション)くらいの売上が見込めるなら何にも言わないよ。でもなかなか新たなお得意さん、できないよ。さすがの大藪君だって最近は売上を落としているし」

「わかりました。…とりあえず新年号からスペース空けときますよ」と渋々だが大藪編集長が承諾したことで、ほか4つの支店長も同意。新年1月号から6つの全社で装いも新たに紙上オークション企画を掲載することに決定した。

「はい、それでは全社で始められることになったので、ここで新たな人事を発表します」と熊田専務。「すでに福岡の支店長と編集長兼任だけど、山鹿君に全社オークション部の部長も兼任してもらいます」

「わかりました。拝命いたします」この人事は事前に打診があって快諾していた山鹿だったが。

「それと、あ、もう一回、前に来てもらっていいかい、山鹿君」と会議の席に戻っていた山鹿を津山がプレゼンの席へ戻るように促された、これは打ち合わせになかったが。

「貴殿は社の2本柱である雑誌販売と広告収入に加えてオークション企画でのマージン収入という3本目の柱の構築に尽力したことを称えて、ここに「社長賞」を贈呈する…」

 いきなり津山が賞状を取り出して読み上げた。このことはサプライズだったため表情が固まってしまった山鹿だったが、続いて津山から「金一封」と書かれた封筒が手渡されると笑顔がこぼれた。熊田専務が大きな拍手を始めると全員が拍手、おおいに照れる山鹿史矢。

 熊田専務が「うひょー、これは知らなかったなあー。山鹿ちゃん、めでたい!」と茶化すと再びぱらぱらの拍手と笑い声が。

 「それでは休憩のあとで、紙上オークション、その肝となる国産ヴィンテージ車についてガイダンスしておきます。車に詳しくない人も自動車屋さんの話しに最低限は知っておかないと付いていけない基礎知識として、まずは人気車の概略から私、熊田と山鹿オークション部長が説明しますので、10分後に着席お願いいたします」

 中部の上島さんから山鹿に声がかかる。「山鹿ちゃん、ウチら車は動きゃええと思っとるで全然うといんで、よろしくサポート頼むで」と。関西の上原からも「ほな、これからよろしくな」。

 そんな山鹿に大藪だけは苦虫を潰したような顔で冷たい視線を送っていた。

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