第9話 作戦会議?

 全社会議前の昼休みは熊田専務に誘われて社屋そばの天ぷら店へ。ランチタイムは昼定食だけなのでカウンターに座るとお茶が運んできたスタッフがご飯の大小と付け汁か岩塩かを確認。昼コースは7品のネタが揚げたてで1品ずつ運ばれてくるが、その前にご飯とみそ汁、漬け物、付け汁が並べられた。熊田さんの前には岩塩の小皿が。そして間もなく1品目の茄子天が来た。

「へえ、熊田さんは塩なんですね」

「うん、付け汁だとついつい汁付きの天ぷらを飯に乗っけちゃって、その汁飯だけでおかわりしてしまうんでね。塩は食べ過ぎ防止なんだ。ここ数年メタボ気味だし」

「ボクも健康診断でここんとこC判定だから気を付けないと」

「山鹿ちゃん、酒飲まないのに?」

「ケンタとか鶏のカラアゲが好きなので、コレステロールがかなり」

「山鹿ちゃんも入社20年か、いつまでも若くないってことね」

「そうなんですよね~」と言いながら2品目の鶏天に噛みついた。

「山鹿ちゃんの34GT、調子は?」

「いいですよ。最近、タイヤとホイールを17インチから16インチにしたんですよ。もともと2000は純正15インチでしょ、2500ターボと同じサイズはオーバーサイズっていうのが付けて走って実感できたんスよ」

「R34は高剛性だから18インチでも履きこなすんだろうけどね。俺のにも18インチはオーバーサイズだけど」

 熊田専務の愛車はツアラーV、JZX100系チェイサーのトップモデルでR34ターボGTと対抗すべく280馬力を誇る。関東エリアは都心では車庫事情が悪いので、週末専用のマイカーを持つには東京郊外か千葉や埼玉などの通勤可能な隣県で駐車スペース付きの居宅を構えることが普通だ。

「17インチでは高速での安定性が余裕でした、ポルシェ911を追い抜いた時もウチの奥さん(麻郁)スヤスヤ寝てたし」

「おいおい、どんだけぶっ飛んでんの、奥さん乗っけて」

「ただ街中で出足が重いんです、クラッチミートからの吹け上がりが。ハイオク仕様でも2000㏄のトルクなんで。3000回転以上回ると変わんないンスけどね」

「いいなあ、手漕ぎ(マニュアルミッション)は。こっち(都心)ではダルくてとても楽しめないよ」

「やっぱり、車を走らすなら地方だよな。都心では夜中の高速や首都高で、ちょっと走ってたらルーレット族と勘違いされるし」

「ですねえ、輸入車は(プジョーやルノーなどの)小さな車でも高速仕様ですから、都心ではかわいそうですよね」

「輸入車はやっぱり新車の時だけだねえ、車検時の整備代を高いからとケチったら消耗品的なトラブル続出よ。郊外から高速向きなんだよな設定が。実用車としてメンテなしで使うなら3年ごとに買い替えるしかないから、それだけ中古も発生するんだけどね。中古で買う人は趣味で使う人限定だよって所有してから実感するんだよね」

「それでもウチ的には商売のタネですからね」

「そっ、カッコだけで買う人が大半のお客様だしね」

 7品目にデザート的な芋天がきたので、熊田さんの塩を借りてパクついた。

「山鹿ちゃん、会議では大藪さんが突っかかってくると思うけど」

「はあい、そうでしょうね。でも今回は社長が薦めている案件だから、多分ツルの一声的に落ち着くことを期待してるんですよ。それに熊田さんが言ってたほど(社長も)体調も悪くなさそうだし」

「本社(東京)周辺はインターネットの普及で雑誌広告は頭打ちの傾向だし、関東版も年契を切られているクライアントもあるから。売上アップになることは経営者としては当然やらせるよ」

「さあ、会議、頑張りましょうか!」

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