第8話 津山社長、体調良さそう?

 山鹿史矢は福岡支社長としてビル4階の社長室へ直行、その隣の経理室のドアが空いていたので覗くと、頻繁に連絡をくれる熊田専務と目が合った。

「熊田さん、お疲れ様です」

「ああ、山鹿ちゃん、今到着? お疲れ」

「社長のご機嫌は?」

「普通普通、いるよ、連絡しとくよ」といって社内通話で隣室の津山社長へ連絡を入れる。「熊田です、山鹿支社長が到着です」「あ、そう。通して」

 この日の社長室はドアが閉まっていた。寒い冬や暑い夏は空調を効かすために閉めるのだが、この日は10月下旬、気候時にはちょうど良い頃なのに。「ご機嫌あまり良くないのかな」と思いながらノックして入った。

「失礼します、山鹿、着きました」「ああ、ご苦労様。飛行機は混んでたの?」 

 こういうふうに問われるのは(いつものことで)わかっていたし、実際はこの朝に乗ったわけでもないので適当に「まあまあですよ、山手線はこの時間でも座れないですね」と言いながら経理的な書類を差し出した。

「通販、売れているね。良かったよ」「ありがとうございます」

「午後からの(会議)、よろしく頼むよ」「かしこまりました」

 あらっ (津山)社長、いたって普通やん、体調悪そうに見えんけど~と感じながら退室した。


 通販とは、希少価値のある中古車をピックアップして広告費は無料で目立つように掲載する「紙上オークション」のこと。欲しい人たちの中から一番高額を付けた人が入手できるという形式。

 運賃(トラック陸送便)は実費なので、その販売店から近い人のほうが、より高額を付けられるし、高額を付けてくれるくらいの人気の希少車を見つけなければならないが、それもまたクルマ好きには楽しい作業。社としては(広告費代わりに)販売アシストマージンとして15%いただけるシステム。毎週1台×4週で月に4台、仮に順調に1000万円を売り上げたら150万円がマージン、西部支社の売り上げにプラスされる。

 もともとの通販企画は東京本社がカー用品販売で立ち上げて6本支社版の紙面で宣伝したが、当時の担当者が相当なマニアにしか売れない珍しい物ばかりを集めすぎて在庫が膨らんで結果的に赤字に終わった。それ以降も今の通販ブームに乗り遅れないようにと新しい通販企画を社内公募した結果、山鹿史矢の「紙上オークション」が採用となり、まずは九州エリアで実施したわけだ。

 この「紙上オークション」を立ち上げた昨年12月から今年8月までの9か月で既に5600万円を売り上げたからマージンも840万円に達しており、それだけで山鹿の年棒を超えていた。

 午後から行われるの全社会議の議題は、福岡支社だけで行ってきた「紙上オークション」を全本支社で行う方針を発表することと、残りの5本支社一斉に始めるのか、または段階的に広げていくのかが協議される。

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