第7話 親子で東京出張、それぞれの思惑は

 週刊くるま情報は関東(東京本社)、関西、中部、北陸、四国、九州の6地区を拠点に編集室と営業拠点を構えているが、それぞれの支社とスタッフを束ねる編集長兼支社長5人を東京本社に呼びつけて行われる全体会議は約3か月ごとの期末に行われ、業績の報告や今後の目標、課題について意見が交わされる流れだ。

 山鹿史矢には週明けの月曜日の11時に本社へ到着するような指示が出るので、北九州空港から朝イチの旅客機に乗れば羽田から都内の本社へは到着できるのだが、ようやく不慣れだった都内の交通機関への乗り方へも慣れてきたので、土日を使って都内へ前乗りして東京見物をしてみようということになった。

 日ごろはドライブ主体で車を使っての移動だが、1人分の交通費は会社経費なので、あとは妻・麻郁の交通費と宿泊費を追加すれば良い。3日間あるので車での移動も考えたが、出張は1泊のみで翌日の午後には地元で出社しなければならないため、会議の終わった夕方からの15~18時間運転して、すぐに地元で出社というのは体力的に不可能。空路で行き来することにした。

 今回は夏休み終盤を利用して麻矢も「新宿の予備校を見学したい」ということになり、親子3人で東京・羽田へ。

 麻郁を連れて行ったのは、もちろんTDL(東京ディズニーリゾート)だ。土曜日の朝イチ発の安価な席を予約して到着した羽田空港からはTDL直行のバスに乗り換えて行くのが最も早く到着できることをまだ知らないので、いちいちモノレールで浜松町に行き、そこから東京駅へ。長々と歩いて京葉線に乗り換えて到着したのはもう昼前だったが、2DAYパスポートで初日は夜までディズニーランドを、2日目の日曜日はディズニーシーの景色とアトラクションを満喫。

 3日目は午後8時の便に乗り合わせることにして、父・史矢は東京本社に出社し、麻郁と麻矢は東京見物という別行動になった。TDLが近いホテルに泊まっていたため、ゆっくり朝食を楽しんで9時にチェックアウトし、京葉線で東京駅まで移動。麻郁はパンダ見物がしたいとの希望で麻矢と上野へ、父・史矢は目黒の本社へ向かった。

 午後からは新宿へ向かった麻矢。予め見学希望で連絡していたので15時からの秋冬受験対策入校ガイドに親子で参加した。大和先輩に会えるかも~の予感は的中、石膏像が無造作に並んだ第2デッサン教室を見学しているとロッカーの荷物をまとめにきた短髪にピアスの、大和先輩だった。

「あの、大和さん、でしょ」

「! あっ、ええっと高校の1年の山鹿ちゃん」

「もう2年ですけど」

「ああ、そうだったね。今日は見学?」

「父の出張に便乗して来てみたところですよ」

「お父さんも大変だね、会社と家族の掛け持ちでさ」

「大和さん、活躍してるって先生から伝え聞いていますよ」

「活躍ったって、まずは受験突破しないとねえ。夏コン(夏休みコンテスト)は今日で終わりさ、これから帰るし、山鹿ちゃんは?」

「ウチも父の本社会議が終わり次第で合流して夜の便で帰ります」

「そうなんだ、気をつけて帰ってね。山田先生にもよろしく伝えてよ」

 荷物を持って立ち去る大和先輩、東京在住は1か月にもなっていないと思うのに話し言葉が東京弁っぽくなっており、の耳にキラリと光るピアスがとてもカッコ良く見えた。

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