第4話 藝大を目指すなら3浪、4浪、5浪が当たり前

 高校は夏休みだが、約10日間のお盆期間以外の平日は部活として登校する毎日。北九州芸術祭に出展用と全国公募用の制作が始まっており、3年生は同時に卒業制作の準備にも入り、重ねてそのほとんどが大学受験対策も兼ねているというハードさだ。

 先輩たちの話によると、浪人して東京藝大に再チャレンジする大和先輩は予備校に通いながら更にスキルを高めているらしく、予備校内の月例デッサンコンテストでは敵無しらしい。この夏はウデ試しに東京の美大予備校のコンテストに参加するために上京しているとのことだ。

 「先生、大和先輩の情報はいっていますか?」と部長の野見山先輩が訪ねたら「ああ、大和さんね。私の友人筋から新宿の予備校で夏休みコンテストに飛び入りして油画クラスのトップになった九州の人がいるっていう情報、大和さんだったよ」

 どよめきと歓声で教室内がざわつく中で、山田先生が続けてコメント。

「確かに凄いと思うよな。でも、藝大って全国から受けられるわけだけど、人口の多い東京には大和さんクラスがうようよいるはず。3浪、4浪、5浪が当たり前なんだし、まともに迷いなく浪人していれば技術は高まるばかりだしね。現時点、夏にトップでも受験本番の冬にはどうなっているか、油断できないよ。でも合格できる可能性は高いと思うから頑張るはずだけどね」

 「先生は藝大じゃないですよね、確か…」と野見山先輩が問いかけると山田先生は「私は名古屋で受験生だったから2回チャレンジしたよ藝大に。現役では1次も受かんなかったけど浪人した年は1次は受かったので、2浪目も頑張ったのよ」

「知ってる、先生は2浪して地元の愛知芸大だもんね」と野見山先輩。

「愛知芸大でも公立だからね、簡単じゃないよ」

「先生、3浪したら東京藝大に行けたと思いましたか?」

「そうね、運が良ければ行けたかもね。受験ってある程度のレベルに達するとその日の運が左右するのかも。出題が得意な課題か不得意な課題かで大きいしね。ま、何にでも対応できるようにしておかないといけないのだけどね」

「でも、現実は入りやすい地元の芸大に入っちゃったのは、両親に負担かけたくなかったのもあったのよ、3浪すれば絶対に受かる保証はないしね」

 進学のための受験勉強、目標、合格の可能性、夢、両親への負担、そして将来はどうなる、どうしたいのか…。山田先生の話を聞きながら山鹿麻矢の頭の中ではグルグルといろんなものが渦巻いていた。

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