第3話 いよいよ全国デビュー?
真夏の甲子園球場、体感で40度は超えているのではないかと思えるほどだから、グラウンド上の選手たち、その中でもマウンドから投球を繰り返すピッチャーと返球するキャッチャー、バットを振るバッター、その都度判定する主審の4人の暑さは相当なものだろうが、勝負を左右する一投一打に夢中で暑さは忘れているに違いない。
そんな全国高校野球のテレビ中継の裏の教育テレビで「夏休み高校講座」シリーズの一つとして「面白い美術」が放送された。平日で勤務中の父・史矢のために録画をセットし、放送日時はあらかじめ連絡があったので周囲の家族たちにも伝えていた。
ロケの日のことは「テレビ(放送)を見たらわかるから」と麻矢は話さなかったので、どれくらい姿が見られるのか見当もつかない。2日間の収録も30分番組に編集されるので、それは出演者にもわかるはずないのだが。
麻矢は母・麻郁と一緒にテレビの前へ。
番組冒頭は市内にある美術館とその関連施設が充実していることをMCの女性タレントが准教授の先生とともにガイド。続いて今回のテーマ「町に溶け込む空間作り」に参加する高校生たちが通う桃園中央高校の芸術コースが紹介された。
ロケに参加した15人を前にテーマについて説明する教授先生に質問するのはMCのタレントばかり。~あれ、この人ダレだっけ、最初に名前が(スーパーで)出たはずだけど~麻郁は名前を思い出せない。
設置場所を検討する生徒たちの姿を背景に准教授とMCが投げかけ質問と回答を繰り返すばかり。中盤は学校内でのパーツ作りが紹介されて、「これらがどんな風に町に溶け込むのか楽しみですね」となって、場面はロケ2日目の設置作業へ。ここでようやく商店街の中で麻矢が手早く鋸(のこ)を引く姿が映しだされた。
各グループ別に3か所に設置された「溶け込んだ風景」、最初は麻衣子たちの「くつろぎのジュース販売機」、並んだ自動販売機たちの色合いに馴染ませるように、その販売機と販売機との空間のスペースに簡易ベンチを設置したのだ。
山本由香里たちはシャッターの閉まった空き店舗前の駐車スペースに縁日の金魚すくいコーナーを常設のように仕立てた。
ラストは麻矢たち、東西と南北に2つのアーケードが交わる交差点の中心に円錐形の屋根の小屋を作りテーブルとイスを置いた休憩スペース。どの方向から来ても商店街の中心にあって目立ちつつ、新しく商店街が設置したかのような違和感のなさが教授先生の共感を得たのだろう。
父・史矢は帰宅してから録画を見たのだが、MCを努めた女性タレント、どこかで見たことがあったようで少し巻き戻してちょっと前に出た名前を確かめた。「…村井、美樹? あ、パロディドラマに出てた! あの美人さんじゃない? 麻矢、この人と一緒にロケしてたんか」
「よく、テレビに出てる人なん、村井美樹って人」
「あの、くりいむしちゅーの番組でパロディドラマの女優役で」
「そうそう」と言いながら麻矢はドタバタと二階に行って戻ってきた、手に赤いつばの帽子を持って。「これこれ」と見せる赤い帽子。
「なん? もらったの、これ、村井美樹に」
収録の移動時に被っていた赤いキャップ、バイザーの裏には「M.miki」のサインも。
「すごい、これオークションに出したら価値あるんやないの?」
その後にクイズ番組で雑学や難解漢字を回答する知性派タレントとしてゴールデンの時間帯でもよく見かけるようになった2002年ミス早稲田の村井美樹さんだったのだ。
テレビの前では番組そっちのけで村井さんの話題になってしまったが、麻矢がテレビに出たことは確認できた。特に意図したセリフはなく、現場で組み立てている時のやり取りの会話が小さく聞こえるだけではあったが。
麻衣子は収録時にカメラを意識して目立つようには振舞ってはいたようだったが、ちょっと目立ったのは自動販売機付近のシーンだけ、ほとんどが尺に収まってはいなかった。
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