第2話 教育テレビのロケに参加させられて
桃園中央高校の芸術コース美術専攻クラスで2年生となってすぐ、麻矢たちに大きな課題がやってきた。なんと東京藝大の准教授の解説と女性タレントをレポーターとMCにした教育テレビのロケ企画が入ったというのだ。
ロケ日は基本2日間だけで実質午前中3時間と午後から3時間、2日目の最後1時間で評価して30分番組の尺にするらしい。
その収録は入梅前の蒸し暑い日に2日間に分けて行われた。
芸術コース2年の美術専攻は28人だが、ディレクターから説明を受けた山田先生の判断で15人を選抜。立体的な感覚と工作力を見越した人選をしたらしいが、その中に麻衣子も入っていたのは当初からのアピールが効いたのだろうか。3人だけの男子からは山鹿麻矢だけ、つまり15人のうち男子は1人だけの出演。
「先生、なんで僕だけ?」
「テレビになんとか耐えるビジュアルの男はお前しかおらんし」
事前に知らされていたテーマは「町に溶け込む空間作り」、場所は高校から近い商店街付近。指導監修役として東京藝大の美術学科デザイン科の准教授の先生、そしてガイドMC女性タレントと一緒に収録するという。
初日は午後から収録開始。准教授と女性タレントMCが高校と生徒たち、商店街を紹介し、今回のテーマで商店街のどの場所に生徒たちが目を付けるか、まで収録。山田先生によって5人ずつの3グループに分けられたのだが、あいにく麻衣子は麻矢と別グループ、それだけなら問題なしだが、収録で唯一の仲良し男子である麻矢に女性タレントMCが接近しすぎないか~それだけが気が気でないのに、カメラ班が近づくと不自然に目立つ振る舞いをするという忙しさ。
「おいおい麻衣子、遊びに来たみたいになってるぞ」
「ちゃんとやってますよ先生、場所も決まったし」
「どこに?」
「自動販売機コーナーのすき間よ」
「ふーん、邪魔にはならないけど、冷蔵庫の熱で暑くないか」
「その時は冷たいジュースを飲んでくつろげばイイのよ」
快適性はともかく、町並みに溶け込むくつろぎの空間を作れば良いのだ。
麻矢と同じ中学の美術部出身の山本由香里のグループは駐車場と空き店舗のすき間を埋めることになったらしく、サイズを測ってメモをしている。美術室に戻ってパーツづくりを始めるためだ。
麻矢のグループは商店街の東西方向、南北方向を行ったり来たりで面白そうな空間を見つけ出せていないような雰囲気だったので、山田先生がヒントを与えようかと考えていたら、先に麻矢が声をかけてきた。
「先生、すき間とか、そんな空間じゃないとダメなんですか?」
「まあ、町並みに溶け込むだから、な」
「絶対にじゃまにならない、という場所ではないけれど、ちなみにあそこは?」と麻矢が指差した場所は!!
「!! まさかの場所だけど、准教授に確認するよ」
西陽が眩しくなってきた頃、その場所で麻矢が准教授と山田先生にプレゼン。イメージしてもらうとOKとなったので、その場でスケッチブックにラフの設計図とおおまかなサイズを記して山田先生に骨格にする木材とダンボールを発注、在庫確認した。
「山鹿くん、ぜひ東京(の大学)に進学しなよ、ウチ(東京藝術大学)でもムサビ(武蔵野美大)でもタマビ(多摩美大)でも。もう進路は決めてるの?」
「あ、いや、まだ、ぜんぜんです」
「このテレビでまずは全国デビューだね。あっ(振り向いてディレクターを呼んで)生徒名(フルネーム)は今回出ないの? あ、そう。まあこの作品と姿はオンエアされるんだから」
テレビ放送と進学は関係ないと思う麻矢だったが、社交辞令としても教授先生にそんなふうに言われると「イケてんのかな」とまんざらでもない感じだった。
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