決勝進出 2

 俺達は、舞台を降りて控室に向かう。


「いやー、でも本当についに決勝戦か!」


 先頭を歩くテツが、俺たちの方を見ながら後ろ向きで歩く。


「そうだね、後数時間後には終わるんだよ」


「俺達が日本一になってな」


「長かったような短かったようなだな」


 一日一日をゲームをして過ごす日々は、決して長くは感じなかった。夢中だったし、なにより楽しかったからだ。しかし、過ぎた日々を振り返ると、長かったような気もする。


「本当だよな。一年前何やってたよ? 感じだよな」


 テツが、深く考えもしないで、話の流れ的にそういった。


「俺は社畜のように働いていたな」


 思い出したくもない、希望も夢も楽しみも何もない、辛い日々だった。ここから抜け出せることは、出来るのか、ずっとこのままかもしれない。本当にそう思っていた。


「僕は、ずっと家でゲームしてた」


「俺もだな」


「奇遇だね」


 全員がお互いの顔を見合わせ、笑いだす。なんだか、いつものおふざけモードに入った。


「あ」


 そんな時だった廊下を曲がって、目の前にいたのは、NEO SPOTの面々だった。ついさっきまで戦っていた相手に、会うというのは、ゲームの世界ではほとんどないことだ。こういった時どういった反応をするのが、正しいのかと考えていると。

 とたんタイガが、NEO SPOTの方に向かって歩き出す。


「才華さん! めっちゃ強かったよ! 今回は、チームとして勝ったけど、個人としては負けたと思ってる。またやりましょう!」


 急に何を言うのかと思ったが、なんともタイガらし行動だった。


「わざわざ、自分たちが勝ったことを強調しなくていいだろ」


 真っすぐ、才華の方を向いているタイガに対して、斜め前を向いたまま、ボソッと口を開いた。


「そういうつもりで言ったわけじゃ……」


 タイガが嫌味を含めたつもりではないのは、俺たちは十分に理解できている。ただ、初めて会った才華からしてみれば、タイガがどんな人間かは分からないから、そう捉えられても仕方が無いことではあるのかもしれない。

 そんなことを思っていると、ニヤッと笑ってから、才華がこちらを向いた。


「分かってるよ。あの嫌なほど真っすぐな戦い方を見てれば、そんなことする奴じゃないって。お前も強かったよ」


 これからも、フォージを続けていけば戦い合う中ではあるが、戦友を前にしているような気分だ。


「お前達の、分も頑張るからな!」


 俺も、タイガの隣に行きそう告げる。こんな強敵に勝ったんだ。どちらが勝ち上って来ても、負けるわけにはいかない。


「お前たちは勘違いしてるぞ」


「え?」


 さっきまでの優しい視線とは真逆の、まるで試合中のような真剣眼光に変わった。また、なにか皮肉と捉えられたか? それとも、俺たちは負けたつもりは無いとか、そういった話か?


「勝ったから感謝の気持ちを伝えるというのは正しいことだ。ここまでくれば、応援してくれるファンを多くいただろう?」


 その通りだ。俺たちは比較的早い段階から、応援してくれるファンの人がいた。配信にも来てくれるし、コメントもくれる。文字とか、数字でそれを可視化出来ることは、とても励みになっていた。

 本当に感謝の気持ちしかない。応援してもらえるだけでありがたいことだ。

 ただ、それのどこが勘違いなのだろうか?


「だけど戦う理由に感謝の気持ちとか、恩返しとかいう感情を込めるのは間違っている。そんな奴が勝てるわけがない」


 なかなか厳しいことを言うが、言いたいことは分からないでもない。


「肉体も精神も限界まで追い込んで初めて勝利というものが手に入るんだ。それなのに、そんなもんを燃料にしている奴が崖っぷちにいる時に勝てるわけがない。綺麗ごとは勝って初めて言えるんだ」


 この言葉を聞いて良く分かった。彼らは本気で日本一を目指して、身を粉なにする思いでここまで勝ち上がって来たことを。みんな努力するのは当たり前だと思っているが、決してそうでは無い。どんなに叶えたい目標があったとしても、努力出来ない人出来ない。それが例え、ゲームであっても。

 俺達は、まだ幸い悔しさという物を味わっていない。俺達にはまだ後一試合残っている。


「だから、自分達のために優勝してこい。特にヴィクターさんはそうなんじゃないのか?」


 一瞬なぜそれを知っているのかと思ったが、昨日のあの状態を、他のチームも見ていたんだなと、改めて認識した。

 かなり目立ってたものな。それはそうか。


「そうだな」


「俺たちはあんたらに、勝ってほしい。応援してるよ」


 才華はそう言って、その場を後にした。


「なんか、あいつクールぶっておきながら、結構熱いやつでしたね」


 俺達も、自分たちの控室に向かうため、歩き始めた時にニシが言う。


「なんだ? キャラかぶりを気にしてるのか? 安心しろあっちの方が強いぞ」


「お前はほんと馬鹿だな」


 ニシが、軽くあしらう。


 控室に着き、ドアを開け中に入ると、第2試合の入場は済んでいるようだ。

 スタッフさんが、全員で見やすいようにと、壁に大型のモニターを設置しておいてくれたようだ。


「これが終わって1時間空きがあるから、見ながら反省会でもして、決勝に備えるか」


「はい!」「了解」「分かりました」


 俺達の決勝の相手が決まる、第2試合が開始された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る