準決勝開始 1

「全員で一気に中央ラインまで上がるぞ!」


「「「了解!」」」


 相手チームは必ず、最初に前線に一人で来る。そのため、こっちが最速で前に出ても、相手チーム全員がぶつかりあうことは無い。それにこちらが先に陣形を作るとそれを報告されてしまうため、今回はあえて、ジョブ関係なく横一列で前に出る。

 俺は盾職で、タイガ、テツ、ニシはアタッカーだ。ニシにはいつも通り、スナイパーを持ってもらっているため、念の為すぐ隠れられるように俺のそばにいてもらっている。

 向こうは移動職を使っているから、先に着くのは向うだ。このまま真っすぐ進めば、必ずどこかで位置を補足出来るので、それから陣形を組みなおす。


「中央! もういる!」


 テツの声が聞こえると同時に、敵が視認出来た。移動職のため直線距離んで移動してこられると、境界線ラインを超えて、来られることは予想していた。向こうもこっちがどう出てくるか、探りを入れるために、1マッチ目はいつも通りで来たのだろう。

 3本先取だから1マッチ落としてもそこまで影響がないと踏んでいるようだ。


「みんな、走りながらでいいから撃って!」


 フォージには、武器ごとに反動が違うのと、撃ち方によって3段階反動に差が出る。それは、ADS(銃口を覗いた状態)、腰撃ち、移動しながらの腰撃ち。後者になるにつれ、反動は大きくなる。近距離ならば、そこまで影響が出ないものの中距離くらいになると、どんなにAIM技術があったとしても、ADS以外は当てるのが難しい。


「おっけ!」


 テツがすぐに、返答して射撃し始める。それにタイガとニシも続く。俺は、現在盾しか持っていないので、攻撃する手段を体当たりくらいしか持っていないので出来ない。


「0ヒット」


「ちょっと当たったわ!」


「え、凄い!」


 当たることは想像していなかったので、儲けものだ。これで、ヒールする時間を稼げる。一発でも当たれば回復したいと思うのが、心理だろう。

 これで、ファーストコンタクトがこっちが優勢になった。

 しかし、ここからが本題だ。


「ニシは左に展開して。見えたら即撃っていいよ」


「了解」


「タイガは単身で右側から前線を押し上げて、これも見えたら撃ってもいいけど、HPローにしても無理に追わないで、そのまま進んで」


「分かりました!


「テツは、俺と少し左に寄りながら前に進むよ」


「おう!」


 全員に指示を出し、バラバラになる。相手の出方が分からないが、もし、左側に寄ってきているのであれば、俺、テツ、ニシの3人でいるので、人数有利を取れる。中央に寄っている場合は、普通に、左右で挟みこめる。タイガ側に寄った場合は、スナイパーのニシ、中距離を死ぬほど練習したテツで、カバーが出来れば孤立しているタイガが即キルを取られることは無いだろう。

 後は、才華選手がこれを見て、どう動いてくるかなのだが。


「ヴィクターさん! 才華と対面した!」


「一人!?」


「うん! 逃げる気もないみたい」


 唯一の移動系だから、すぐに誰だか分かるのは、こちら側の利点ではあるが、単身でタイガに挑むつもりか?


「俺たちの前方にも3人見えたぞ!」


 テツの報告で、向こうがやろうとしていることが、分かった。


「そう来たか!」


 相手は、機動力を生かして、タイガを足止めしているうちに、アタッカー3枚積みで俺達3人を先に潰しに来たのだ。

 向こうは近接3人に対して、こちらはスナイパーと盾がいる。近距離まで近づけば十分勝機があると考えたのだろう。タイガの火力を嫌がって、孤立しているのを狙ってくると思ったのが、裏目に出た。

 しかし、一人っきりで大した武器も持っていない状態で、タイガを止めきれる自信があるとは、なかなかだな。


「牽制するぞ!」


 テツとニシが、前方の敵に向かって射撃し始める。さいわい、早くに見つけることが出来たため、まだある程度の距離は保てている。

 今考え付く策はいくつあるが、一番堅実的なのは。


「タイガ! 才華ごとこっち寄ってこられそうか?」


 お互いが中央に寄っていき、4対4で戦うこと。しかし、これをすると、編成の不利がこちらに出る。だけど、現状とれる中では一番現実的だ。


「やってみるけど、難しそうです! こいつ一定距離取り続けて、ピストルでちくちく撃ってくるから、回り込めない!」


「分かった! 無理やり突破出来なさそうだったら、無理せずに、その距離保って」


 かなり徹底して、タイガを足止めしているな。そうなると、俺達3人で目の前の3人を仕留め切らないといけない。


「ニシ! そこから中央によって、俺達をカバーして! テツは俺といったんここで待機!」


「了解」「おっけ」


 恐らく、俺とテツがタイガの方に寄るのを防ぐために、射線を通している奴がいるだろう。ニシの準備が出来たら、まずそいつをダウン取る。そうすれば、復活までの時間を稼ぐ動きにシフトするだろうから、前線を押し上げて、戦場の範囲を狭くしていけば、勝機はあるだろう。


「ヴィクターさん! 正面の二人が詰めてきてるぞ!」


「え?」


 ニシの動きが読まれていたか? 


「これ、もうやりきるよ! ニシカバーお願い!」


 既に、下手に遮蔽物から体を出せば、一瞬ダウンする距離まで迫ってきている。こっちが陣形を変える前に、叩こうとする作戦なのだろうが、まるで初めから決め打ちをしていたかのような行動の速さだ。


「俺が一度顔を出して、撃ち切らせるから、そしたら俺の後ろを通って、右から回り込んで!」


 そう言いきり俺は、今いる遮蔽物から持っている盾とともに大きく飛び出る。すると、向こうもAIMを置いていたようで、それに反応するかのように、射撃してくる。おれの予想通り、相手の弾は全弾俺の盾が防ぎきる。


「テツ!」


 俺が叫んだと同時に、テツが俺の横から前に出ていた。


「一人やった!」


 相手は弾を撃ち切り、リロードするために、遮蔽物に隠れようとしたが、テツの方が一歩早く、一人をダウンさせる。

 それを確認したと同時に、前方にいるもう一人に向かって、走りだした。


「テツ! 俺の後に着いてきて、このままもう一人やるよ!」


 盾を構えた状態で、テツの遮蔽になりながら前に出る。相手との撃ち合いになっても、俺が受けきれれば、多少ダメージを食らっても倒しきれる。

 相手も何とかして、俺ではなく後ろにいるテツを狙おうと、左に回り込もうとしている。しかし、それに対応して、おれも、時計回りにまわる。


「あと、ミリ!」


 その時機転を利かしたテツが、反対方向に周り相手の裏を突こうとした。そのおかげで、敵と真正面で向かい合う形になったり、お互いが射撃する。全弾ヒットとはいかずに、テツもかなりのダメージを食らってしまったが、相手も残りHPわずかのところまで削りきった。


「あ! え?」


 ところが、テツはダウンしてしまった。敵は目の前の敵はリロード中のはずなのに、なんでだ?


「ヴィクターさん! 中央のやつ!」


 初めに対面した、3人のうち一番中央寄りだった相手が一人射線を通していたのだ。

 このままでは、すぐ正面の敵と挟み込まれて、すぐに俺もダウンしてしまう。そうなったら、こちらが、圧倒的に不利になる。ここで俺がとる行動は。


「うおおおおおおおお!!!」


 テツがほとんど削りきった敵に向かって、盾を構えてまま突進する。

 俺は、盾での体当たりで1キルする。俺は今大会、初めてとなる盾でのキルを成功させた。

 しかし、中央にいる敵に背中を向けていた俺は、あっけなくダウンする。だが、これで、2対2になり最悪の状況は免れた。


「ニシ! そのままタイガの方まで寄って!」


「了解!」


 二人が合流してくれれば、俺たちのリスポーンまで耐えてくれるだろう。そうすれば、もう一度仕切り直しだ。


「才華やった!


 そう考えていた矢先、一番嬉しい報告を受けた。


「最後の一人やりに行く! ニシ前出て!」


 タイガは、そのまま一直線に中央へ走るり、ニシも前線に出る。

 二人に囲まれるのを嫌がった、敵は自陣の方に下がっていくが、それによってすぐに位置を補足で来た。


「いた!」


 タイガが見つけるやいなや、すぐに射撃する。少し距離があったため1マガでやりきれず、リロードに入るが。


 VICTORYの文字が画面に出る。


「よっしゃあああ!」


「ナイス!」


 今回は、すぐ隣に仲間がいるため、ヘッドホンを外しみんなでハイタッチする。

 最後の一人はタイガが少し削った所を、ニシがスナイパーで抜いたようだ。

 1マッチ目を取れたことで、流れがこちらに傾いた。このまま、勝負をつけたいところだが、さっきは作戦を読まれていた所を、なんとか自力で押し返しただけだ。

 次もまたうまくいくとは限らない。








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