準決勝 4

 その声と同時に、4チームが一斉に動き出す。俺達とNEO SPOTは実況解説席を挟むかのように設置されている、パソコンの方にむかう。もう2チームは自分たちの控室に戻っていく。


 ここで、初めて大会用のパソコンと対面する。またここでも、デバイスセットとゲーム内設定をする。なんでここまで回りくどいことをするかと言うと、不正対策のためだ。

 いわゆるチートツールを使わせないように見張るため。言い方を悪くすると、こうなってしまうが、これは選手自身を守るためでもある。

 こうすることによって、疑惑なシーンがあってもチートを使っていないことを証明できるからだ。


・解説の大柳さん。今大会の見どころって、どのへんにありますか?


 そうは言ってもすぐに、終わるものでもないため解説席が間を繋げてくれている。


・そうですね。これまでの大会を見てきた限り、ファーストダウンを先に取ったチームの、勝率が異常に高いんですよね。今の環境だと1人ダウンさせたら、人数差を活かして一気に押し切るっていうスタイルなんですよね


・そうですね。ASPIRATION WARRIORSを見ているとよく分かります


・だけどここまで勝ち上がってきた、チームですので、そうは簡単に崩れないと思うので、ワンダウンしたあとの、粘りとか作戦に注目すると面白いかもしれません


・なるほど。様々なゲームでトッププロを経験してきた、大柳さんならではの着眼点ですね


 大柳さん。彼のことはちょっとだけ知っている。長年様々なFPSゲームでプロ活動をしていて、俺も実際に戦ったことがある人だ。たしか、あの大会も出ていたよな? 俺は最多キル賞だったが、総合一位は大柳さんのいるチームだったと思う。

 今は、選手を退いてい解説などで活躍をしている。FPSゲームの根底にある技術力という物は、ゲームが変ってもだいたいは同じである。だから、一つのタイトルで、トッププレイヤーになった人は、別タイトルでもある程度の上手いのだ。さらに、大柳さんはそれに加えて、ゲーム理解度が他者と比べ物にならないくらい深い印象がある。

 まだ、リリースしたばかりで、実績を持っているプレイヤーが存在しない中で、解説という立場に座るに一番適している人物かもしれない。


「ヴィクターさん。あれ本当なんですか」


 テツが、俺の肩を揺らしながら聞いてくる。すでに設定が終わり、最終チェックとして射撃訓練に行こうとしている時だった。


「どれが?」


「ファーストダウンの話です」


 一瞬なんの話かと思ったが、今大柳さんが話していたことか。


「まあ、そういう傾向にはあるね」


 今の日本の環境は、ファーストダウンまでが長く、一枚掛けたら一気に片を付ける。まだ、作戦を練るという部分で未発達な部分が多いのが今の状況だ。世界からみたら、作戦の面ではかなり幼稚なものに見えるだろう。

 ただ、それを向上させるには、日本選手全体のゲーム理解度の底上げが必要になる。一人が絞り出す知識には限界があるからだ。

 しかし、その一方でAIM力や、対面力、一対一での状況での力は世界から見てもトップクラスに入れるくらいの実力はある。


「おい、まじかよ! 俺戦犯になる可能性大じゃん」


 テツが頭を両手で抑えながら、うなだれ始める。ファーストダウンする回数が多いことを気にしているようだ。


「それは、前にも言った通り、役割的な面もあるから………」


 なにを、今さらそんなことを心配しているんだ? これじゃあ、この間の合宿は何だったのか? 完全に吹っ切れて、一皮むけたと思っていたのに、緊張で元に戻ってしまったのか?


「やばいよー、どうしよう。配信コメントで戦犯って叩かれるぅ!」


「なにを今更そんなことグダグダ言ってんだよ!」


 既に、ボイスチャットが繋がっている状態なので、テツの嘆きは他の2人にも聞こえている。結構真面目なトーンでニシが怒鳴る。もうすぐ、試合は始まるというのに大丈夫か?


 そう思っていたら、今度はテツが笑い声をあげた。


「いやー、皆が緊張してるかと思ったから、ほぐしてあげよと思ってさ」


「なんだよ、驚かせるなよ」


 正直、本当に頭がおかしくなったのかと思って心配した。


「テツも、それくらい余裕あるなら、この試合大活躍間違いなしだね!」


 唯一動揺も何もしていなかった、タイガがニシのやる気を煽るかのような発言のする。こんな時でも、一人で射撃訓練場に籠っている。どんな隙間時間でも、欠かさないこの姿勢はまさに日本一だな。


「おお、タイガそんなの当たり前じゃねーかよ。何のためにヴィクターさんの貴重な4日間貰ったと思ってるんだ」


 そんなプレッシャーをかけられても、なんとも思っていない、テツ自身もなかなかの強者だ。普通なら、この大舞台で、余計なプレッシャーをかけられたら、吐き気覚えてもおかしくない。


・もうそろそろ、両チームの準備が整いそうですが。大柳さんここで、両チームの見どころってどんなところでしょうか?


・そうですね。NEO SPOTの方は、なんと言っても注目は移動職の「才華」選手ですよね。チーム内で彼一人が頭一つとびぬけているのがよく分かります。それに、チームのことを良く理解していて、選手一人一人にあったオーダーを瞬時に出せているので、研究量の多さが伺えますよね。そして、ODDS&ENDSの方ですが、こちらは大会通してほとんど使用されていない、盾職を予選から使っている珍しいチームですよね


・しかも、あの日本最大火力と謳われたヴィクター選手がですもんね


・彼自身も、恐らくアタッカーをやれば、普通に強いとは思うんですけど、それ以上に他3選手の単体火力も高いですから、そういった点でそれを最大限活かせる、盾職なんでしょうね


・なるほど。ありがとうございます。ここで、両チームの準備が整ったようです。それでは準決勝第一マッチの開始です


目の前のモニターにマッチ開始の文字が出た。


「よし! 行くぞ!」


「はい!」「おう!」「よっしゃ!」










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