準決勝 3
朝ホテルのベットで目が覚める。
想像以上にぐっすり眠れ、目覚めのいい朝だ。今日俺たちは9時にロビー前に集合になっているのだが、今はまだ8時。荷物というほどの荷物ではないが、すでにチェックアウトの準備はできている。そのため、焦ることなくベットから出て、シャワーを浴びるため浴槽に行く。
後数時間で準決勝が始まる。
熱いお湯を頭からかぶる。この瞬間が一番心地がいい。自分の頭が徐々に覚醒してくるのが分かる。チームの司令塔である俺の役割は重大だ。俺の頭の冴え方次第で、みんなが全力を出せるかどうかが決まる。
「よしっ!」
目が覚めた体に、気合を入れるために自分の、両頬を手のひらで叩く。
浴槽から出て着替えてから、忘れ物がないか確認して部屋を出る。ロビーに行くと今日に限っては俺が一番最後だった。
「あれ? ニシずいぶん早いな」
いつもなら絶対にいないであろう人が、そこにいるのを見ると、多少の違和感を感じる。
「いやいや、こんな時まで遅刻するわけないじゃないですか?」
缶コーヒー片手に、手を振りながらニシがいう。
「緊張しすぎて寝れなかったらしいっす」
「いつ誰がそんなこと言った」
このツッコミの鋭さで、寝起きでないことが確定した。
「おはようございます! ヴィクターさん!」
わざわざ、俺のそばまでタイガが挨拶しにくる。他にだれも待つ人がいないので、予定より少し早いが、ホテルを後にする。そして昨日と同じく、コンビニに寄ってから控室に行く。控室に到着次第各々が、何を言うでもなく練習を開始した。
恐らく、12時の公式配信が始まる少し前には、ステージの横でスタンバイしておかないといけないので、チーム練習をする時間はあまりないだろう。
「後1時間ちょっとくらいしかできないのか」
俺がいつも個人でやる、アップを一通りして、時計を見たら、既にそんな時間だった。
「いやー、相変わらず、俺のAIMは絶好調だぜ!」
テツが伸びをしながら、大きなあくびまでかいている。ずいぶんとリラックスできているようだ。
「ここまできたら、後は全力でやるだけだからね」
「最後にちょっとやるか」
そう言って、チーム練習を始めると、時間はすぐに来てしまった。
スタッフさんに呼ばれ、ステージ横まで移動する。既に2チームが集まっているようだ。まだ来ていないのはあいつらだけ。
・皆さんこんにちは。Force Stragy 1season準決勝、決勝の開幕です。私司会を務めさせていただきます、
・解説の
どうやら、配信が開始したようだ。アナウンサーと解説の人の声が聞こえてきた。配信で多くの人に見られているだけでなく、実際に観客の人までいるとなると、さすがに少し緊張してきた。
「楽しみですね」
タイガが俺の方を見てそう言う。どうやら、タイガに緊張という文字は存在しないらしい。
「普通に生きているだけだと、こんなに注目されることは、無いからな」
後ろにいるニシがタイガの肩を掴みながら、うなだれている。だいぶ緊張しているようだが、見た感じ、手が震えているみたいなことはないから大丈夫だろう。マウスはきちんと握れる。だったらニシはきちんと自分の仕事をこなせるはずだ。
「俺は慣れてるぜ!」
テツは、親指で自分を指さししながら、笑っている。すでに配信が始まっているので、多少声のトーンは落としてあるものの、自信がありますよと言わんばかりの声だ。
「お前は特別だろ!」
そんないつも通りの俺達らしいやり取りをしていると。
・それでは栄えある4チームの入場です!
解説の人の声と同時に、すぐ横にいたスタッフの人から、ステージに上がってくださいと指示が出た。
・1チーム目はODDS&ENDS~! 大会前から話題沸騰! 守護神として復活した、勝利の男ヴィクターが、最強のメンバーと共に、日本一を目指す!
ナレーションとともに、1番手で入っていく。昨日決まられた定位置まで行かなければいけないのだが、先頭の俺が分からず、おどおど歩いていると、後ろのタイガが背中を押してくれた。
そのまま押されるがままに前に進んでいくと、ステージ上にテープが張ってあるのが、分かりそこで止まる。
・2チーム目はNEO SPOT~! 戦場を縦横無尽に駆け回りる、日本一の連携力を持つチームは、正真正銘日本一の名を我が物にするのか!
これが俺達が準決勝でやる相手だ。先頭を歩いているのが、チームの要「才華」選手だろう。あの選手をいかに自由に動かさせないかが、勝利にカギになる。いくつか作戦は考えてきてはいるが、どれも、試すのが楽しみで仕方がない。
・3チーム目はASPIRATION WARRIORS~! アタッカー4枚積みの重厚感で先手必勝! 突貫の戦士たちはこの舞台でも蹂躙できるのか!
視聴者が見ていて、一番楽しいチームだと思う。守りの手は一切なく、攻めの一本鎗。そのため、チーム総合の対面力は大会一だろう。このチームとは、長引けば長引くだけ、こちらが有利になるから、いかに全滅されないようにするかが、ポイントになる。
・そして! 最後のチームはこちら! STRADA~! 2砲の固定砲台により、バックアップは支援だけでなく、止めを刺す一撃! チームキルを2分割する二人の射線は、今大会どこまで通るのか!
少し遅れて入ってきたあいつらを、無視するかのように、正面にいる客席の方に向ける。改めて見ると観客の多さに驚く。こんなにも多くの人が、フォージの競技シーンを応援してくれているのか。ただの数字としてではなく、目の前に実物の人達がいると、とんでもない数に思えて仕方がない。
「なんだか、ここにいる人たちに、良いもの見れたって、思ってもらいたいな」
「安心してください。僕たちのプレーは、人を惹きつけるだけの魅力がありますよ」
ボソッと自分の口からこぼれ出てしまった。特に誰かに話しかけたつもりではないが、横にいるタイガが反応してくれた。
・それでは、全チームが揃いましたので、これからチームの代表の方に一言いただきたいと思います
横からスタッフの人がタ来て、タイガにマイクが差し出される。他のチームも先頭に立っている選手に渡されているが、どうやら昨日俺がダウンしていたから、代わりにタイガがリハーサルをやってくれていたようだ。そのためスタッフの人もタイガに渡したのだろう。こういった時にしゃべるのは、タイガかテツが適任だろうから、特になにも言わずに、任せたいと思う。
「僕たちは、勝つためにここに来ました。絶対に優勝します! そして、会場の人、配信で見てくれている人を楽しませられるようなプレーが出来ればと思います!」
マイクのスイッチを確認してから、話し始めたタイガだが、なんとも大人びているというか、いつもの子どもっぽさが一切ない、きちんと一人の選手になっている。テツが、力強く親指を立ててグットポーズをし、ニシが小さく拍手をしているほどだ。
しかし、短い言葉ながら俺達全員の想いがしっかり伝わる、素晴らしいものだった。
「ここまでやってきたことが、出来れば勝てる。僕たちのチームは、そのくらいの練度で、それを胸張って言えるくらいの練習はしました。今日勝つのは僕らです」
才華選手の声は、なんとも落ち着いているもので、戦闘中でもしっかり聞き取れるいい声だ。
「俺たちの火力が、日本一だと証明される日がついに来た。それだけです」
なんとも、ゲーマーには程遠い存在のような、ガタイの良い4人組だ。まるでAIMは筋肉と言ってそうだな。
「いや〜、まさか僕たちなんかのチームがこんなところまで来れるなんて思ってなかったんですよね。所詮ゲームなんて楽しければいいんで、せっかくのこの舞台楽しみたいと思います」
最後にマイクで喋ったのはショーターだった。何をいうかは勝手だが、まるで他の3チームを馬鹿にするかのような喋りだった。俺のみならず、全チームが1番左端にいるチームの方を見ている。
「はぁ?」
マイクに乗らない程度の小さい声だが、明らかに不機嫌な声がタイガから聞こえてきた。タイガからこんな声を聞いたことが無いので、驚いている。
・全チームの決意表明が終わったので、準決勝第一試合を始めたいと思います! それでは、ODDS&ENDS、NEO SPOTの両チームはスタンバイをお願いします!
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